研究課題/領域番号 |
19K19956
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
平尾 貴大 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 助教 (70824572)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | EEG / スポーツパフォーマンス / 二者間の運動同調 |
研究実績の概要 |
スポーツ競技パフォーマンス直前に,左手でボールを反復把握するだけで競技場面のあがりを防止できるといった報告がある(Beckmann et al., 2013).左手の反復把握実施後の脳活動を調べたところ,右半球よりも左半球の活動が高い状態が継続することがわかっており(Hirao & Masaki, 2019),相対的に左半球よりも右半球の活動を増大させることが,あがり防止策として有効であることが予想されている.本研究では,反復把握法や脳波計測を用いたニューロフィードバック(neurofeedback: NF)訓練法といった左右半球活動の不均衡に影響を及ぼす可能性のあるあがり防止策について,その神経基盤も含め検証し,より効果の高いあがり防止法を模索する. 令和2年度は,アスリート二者間の運動同調の脳内メカニズムに関する知見を論文に纏めた(Hirao & Masaki, 2021, Scientific reports).ボートダブルスカル競技者を対象とし,二者間で運動同調する際の脳活動について脳波測定によって検証した.通常の競技ペア同士で運動同調を実施する条件(ペア条件),競技でペアを組んでいないもの同士で運動同調を実施する条件(非ペア条件)をもうけた.ミラーニューロンシステムの活動を反映すると考えられているΦ2成分を算出したところ,ペア条件のΦ2成分が大きな選手ほど,高い共感性得点(質問紙で取得)を示すことがわかった.本研究の結果は,アスリートの正確無比な運動同調には,ミラーニューロンシステムが関与している可能性を示唆した.あがりとは,プレッシャー場面がもたらす不安状態により,パフォーマンスが低下してしまう現象だと定義される.本研究により,あがりを研究する上で必要不可欠なパフォーマンスの背景にある神経活動に関する知見を得たと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
fMRIおよび脳波実験では,測定準備等の際に実験参加者の方と密に接することとなる.令和2年度は,コロナウイルス感染拡大防止の観点から,新たな実験参加者からのデータ取得を控え,これまで取得したデータの解析およびNFシステムプログラムの改良,実験環境の整備を進めた. 具体的には,令和1年度に数名より取得したfMRI実験のデータ解析を進め,作成したシューティング課題がfMRI実験課題として妥当なものであるか検証した. 脳波NFシステムプログラムの改良では,まず令和1年度に作成したプログラムの問題点を修正した.具体的には,NF時に脳波記録した際,サンプリングレートが低下する問題を解消した.単一の電極から得られたデータではシグナル/ノイズ比が低くなり訓練効果を得にくいことが示唆されていることから(Gong et al., 2020),脳波を導出する電極数を修正した.これまでのプログラムは,左右半球の中心部位に配置した電極(C3, C4),それぞれ1つずつから脳波を取得し,ニューロフィードバック訓練に使用する仕様であった.今回の変更では,近傍の電極から取得した値をプーリングし,フィードバックに使用できるように修正した. 令和3年度には,ゴルフパッティングを課題として使用し,NFの効果検証を実施する予定である.ゴルフパッティングの成績を効率的に処理するための,画像処理プログラムを作成した.
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今後の研究の推進方策 |
まずは,自身が所属する研究グループ内の方を対象とし,令和2年度に改良したNFシステムを使用した予備実験を実施する.当該予備実験でシステムの動作確認を行なった後,コロナウイルス感染状況を確認しながら,反復把握法と脳波NF訓練の相乗効果検証について進める. 当該実験では,ゴルフパッティングを課題として使用する予定である.ゴルフパッティングでは,パッティング直前に左半球の活動が低下する(運動野直上に設置した脳波電極でアルファ帯域パワ値が増大する)ことが知られており(Crew & Landers, 1993),本研究の効果検証として適した課題であると考えている. 令和1年度に実施したNF実験では,8名の参加者よりデータ取得したが,過半数の参加者はニューロフィードバック訓練を実施したにも関わらず,相対的な右半球活動の増大を示すことはなかった.先行研究において複数のセッションに分けて繰り返すことがニューロフィードバック訓練効果を高めると示されていることから (Mirifar et al., 2017),令和3年度に実施する実験では,複数セッションの訓練を設けた上で,訓練効果を検証する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
fMRIおよび脳波実験では,測定準備の際に実験参加者の方と密に接することとなる.令和2年度は,コロナウイルス感染拡大防止の観点から,新たな実験参加者からのデータ取得を控え,これまで取得したデータの解析およびNFシステムプログラムの改良,実験環境の整備を進めた.実験実施ができなかったため,使用予定であった.それゆえ,実験参加者への謝礼金,MRI装置の利用料金が発生しなかった. 昨年度の報告時点では,NFシステムプログラムの改変を該当業者に依頼する予定であった.しかしながら,本年度は実験実施などが困難であり,プログラム修正のための時間を確保することができたため,修正の一部を自ら実施した.それゆえ,使用予定金額が大きく減少した.今年度の研究費の剰余分は,解析時間の減少に貢献できる高性能なパソコンなど,研究進捗の遅れを解消するための経費として使用したいと考えている.
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