ヒトの脳には後付けで自分の行動や認識の意味を書き換え,再構成する機能がある.これは「ポストディクション」と呼ばれており,ヒトの非意識的反応に関する一つの知見である.サッカーのように,短い時間スケールでプレーを選択する競技場面では,自覚的な意識や認識を伴う反応だけではなく,非意識的な反応も行っている.そのため,サッカー選手は,プレーを選択する場面において,身体の反応からその行動の意味を認識する「ポストディクション」に近い体験をしている.これらの知見を基に,本研究ではヒトの知覚・認知・行動のメカニズムを理解するために,以下2つの研究課題を設定した. (課題1) 熟達したサッカー選手の感覚信号に対する迅速な行動(運動・反応)は,意識として脳が評価するよりも前に起こり得る反応であるのか.(課題2) 競技レベルや熟練度の違いは,行動と脳の情報処理過程にも影響を及ぼすのか. 今年度は延期していた研究課題1の実験を実施した.当初は実際の競技場面を想定した選択反応課題における事象関連電位と筋電図反応時間の測定を行う実施計画を立てていたが,共同利用する大学施設がコロナウイルスの影響で使用できなくなったため、実験内容を変更して実験を行った.実験では大学生サッカー選手30名を対象として,強度の異なる運動を行い,実際の競技場面を想定した選択反応課題における反応時間を計測した.結果,中強度の運動後における反応時間は安静時の反応時間よりも早かった.この結果は熟達したサッカー選手の感覚信号に対する迅速な行動(運動・反応)と運動強度に関する基礎的な知見となった.
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