研究実績の概要 |
本研究は健康維持に適切な運動量の上限を決めるために最大酸素摂取量と起立耐性機能の関係を明らかにすること、その関係を引き起こしている生理学的機序を明らかにすることを目的としている。本年度は新型コロナウイルスの影響で被験者数を増加できなかったため、昨年度に取得したデータを元に起立耐性機能と詳細な心機能の関係について評価・解析を行った。 中体力者12名、高体力者12名に対して下肢陰圧負荷(LBNP)試験を行い、その際に3D心エコーにて測定した左室機能について解析を行った。昨年度の結果(過度な陰圧負荷に伴い、中体力群では左室捻転角度は増加し、左室ほどけ速度は加速した。高体力群ではこの左室ほどけ速度の加速が認められず、起立耐性能力低下の一因であると考えられた)より、心臓リモデリングの影響を疑い、左室ほどけ速度に影響する形態学的因子について評価・解析を行った。EDVi (r=0.50, p=0.01), ESVi (r=0.58, p<0.01), Torsion (r=-0.57, p<0.01), 球形率 (r=-0.54, p=0.01)は左室ほどけ速度と相関関係を認めた。重回帰分析ではTorsion(β=-0.454,p=0.03)と球形率(β=-0.454,p=0.03)が共に左室ほどけ速度に有意な負の影響を認めた。つまり左室が球形であるほど過度な起立負荷時の左室ほどけ速度が遅かった。持久性運動による心臓リモデリングでは心臓が球形となるため、起立耐性能力低下を引き起こす原因かもしれない過度な起立負荷時の左室ほどけ運動加速の鈍化と持久性運動による心臓リモデリングが関連することが示唆された。昨年度の結果については第75回日本体力医学会大会で発表を行った。今後は被験者数を増やし、さらに細分化した体力レベルでの区分を行い、適切な運動レベルの上限の設定を目指す。
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