本研究は,筋の硬さの筋間差が運動誘発性筋損傷の程度に及ぼす影響を明らかにしようとするものである.また,ストレッチングが運動誘発性筋損傷を軽減する効果を有するかどうか明らかにすることも目的とした.本研究により運動誘発性筋損傷の軽減方法が確立されれば,傷害リスク低減,運動継続の一助となると考えられ,ひいては健康寿命の増加,競技力向上に繋がることが期待される. 研究対象者は,若年男性とした.大腿後面の筋群であるハムストリングに対する筋損傷課題として,伸張性膝関節屈曲筋力発揮を全力で100回行わせた.また,運動誘発性筋損傷の軽減に対するストレッチング効果を検討するため,筋損傷課題の前にハムストリングの筋に対する静的ストレッチングを実施する群を設けた.筋損傷課題の前後および1~4日後にわたり,筋力や大腿の周径囲,股関節屈曲可動域,筋肉痛,そして,ハムストリング各筋の硬さを測定した. 運動課題後に,筋力の低下や周径囲の増加,関節可動域の低下,筋肉痛の発生が認められた.これらは,運動誘発性筋損傷の典型的な症状であり,本研究の運動課題により筋損傷が誘発されたと言える.また,筋損傷に伴う筋硬度の増加は,半腱様筋において認められたものの,大腿二頭筋および半膜様筋には認められなかった.運動課題後に変化の認められた変数は,4日後においても初期値に戻らなかった.また,静的ストレッチングを実施した群と実施しなかった群に明確な差異は認められなかった. 本研究の結果から,膝関節屈曲運動によるハムストリングの筋損傷は,半腱様筋において顕著であると示された.また,伸張性運動実施直前の静的ストレッチングには筋損傷軽減効果が乏しいことが示された.ただし,本研究課題で実施した筋損傷課題は,4日後においても症状の改善がほとんど認められない強度であった.これがストレッチング効果が認められなかった要因かもしれない.
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