本研究は、疲労骨折のリスクが高い女性長距離陸上選手における骨折のうち、骨質劣化に着目した有効な予防法の構築を目指すものである。骨強度および疲労骨折の関連因子を包括的に調査し、その中でも先天的な因子であるメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の遺伝子変異がスクリーニング項目として有効であるかを調査した。 その結果、MTHFRの遺伝子変異は骨強度に対して、骨密度とは異なる影響を有していることが示唆された。さらに遺伝子変異を有するものは、血漿ペントシジン濃度が高く、疲労骨折経験を有するという有意な傾向が得られた。さらに血漿ペントシジン濃度は、血漿Homocysteine濃度と有意に強い正の相関がみられた。このペントシジンおよびHomocysteineは、骨密度とは独立した骨折の危険因子として報告されている。 疲労骨折の予測手段として、従来はDEXA法による骨密度測定が主である。しかし、骨密度において骨折リスクを判別する閾値は存在しない。また、骨強度は、骨密度とそれ以外の因子である骨質によっても規定されることが報告されている。そのため、骨密度測定のみでのリスク判定は非常に困難である。 女性アスリート(特に、長距離陸上選手)は、疲労骨折を生じるリスクおよびその頻度が非常に高いため、重要な調査ターゲットである。その女性長距離陸上選手における疲労骨折予防のためのスクリーニングとして、従来の骨密度測定のみではなくMTHFRの遺伝子変異を判定することも有効であることが示唆された。 本研究は、女性アスリートだけでなく「やせ」意識が高まる若年女性、また、脆弱性骨折のリスクが高まる高齢者の予防スクリーニングにも活用できる可能性がある。
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