最終年度では本研究の総括として、これまで健常者で実施してきた電磁ゴニオメーターを用いた分析を応用し、実際の座位のクロスカントリースキー選手1名を対象にポーリング動作の分析を実施した。対象は両下腿切断の選手で、義足を用いることで立位での測定も可能であったことから、立位、椅子座位、シットスキーの3条件で比較を行った。結果として、ポーリング動作のパフォーマンス指標である平均出力やパワーは立位とシットスキーで同等、椅子座位では低値を示した。運動学データでは、広義の肩関節挙上角度は椅子座位とシットスキーで立位よりも高値を示し、肩甲骨の上方回旋角度は大きい順からシットスキー、椅子座位、立位となっており、肩甲上腕関節は立位、椅子座位と比べてシットスキーで低値を示した。以上の結果はこれまでの健常者での測定と類似して椅子座位での肩甲上腕関節挙上角度の増大が肩関節インピンジメントを引き起こす可能性を示していた。一方で、選手個人に合わせて採寸して制作されたシットスキーあれば、肩甲骨の可動性が高まることで肩甲上腕関節の過度な挙上を予防できる可能性が示された。 以上、本研究により座位のシットスキー選手で起こりうる肩痛のメカニズムについて運動学的に明らかになったとともに、適切なシットスキーの選択や調整が予防につながる可能性が示された。
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