課題1では,熟練度の異なる実験参加者に対して,4 vs. 4の攻撃場面における状況判断テストを行った.結果では,味方ボール保持局面では,味方や相手,スペースに視線を向けていた.ボールアプローチ局面では,正確にパスを行うために,ボールとパスを出すチームメートに視線を向けていた.こうした視線行動は,サッカーにおける視覚探索方略の代表的なパターンの一つであることが明らかにされた.課題2では,課題制約としての攻撃方向の有無が,知覚運動スキルに及ぼす影響についてフィールド実験を行った.6 vs. 6による攻撃方向を伴うゴールゲームと攻撃方向を伴わないボールポゼッションゲームを行い,その時のプレーヤーの首振り回数およびプレー関与回数を評価した.対象プレーヤー2名の記述分析の結果では,首振り回数については,攻撃方向がない場合は33回,攻撃方向がある場合は19回であった.オンボールプレー回数は,攻撃方向がない場合は34回,攻撃方向がある場合は24回であった.これらのことから,課題制約としての攻撃方向の有無を設定することによって,知覚運動行為に影響を及ぼす可能性が示唆された.課題3では,小学生2名を対象に,攻撃方向のないボールポゼッショントレーニングが試合中の首振り行動に及ぼす影響について事例的に検討した.トレーニング介入前に試合中(20分間のゲーム)の首振り行動を計測した.その後,約1か月間,週1回,約30分間のボールポゼッショントレーニングを行い,介入後に試合中(20分間のゲーム)の首振り行動を計測した.結果では,介入前の首振り回数は平均68回であったのに対して,介入後の首振り回数は平均72回であった.研究期間全体を通して,課題の制約は知覚運動スキルの獲得に寄与する可能性が推察された.
|