研究実績の概要 |
本研究は、運動による実行機能の低下(運動性認知疲労)の生理機構を解明するため、以下の実験を実施した。 実験2-2では、運動性認知疲労の生理機構解明を目的とし脳酸素運搬能の関与について、検証することとした。低酸素下運動同様に、標高5,000m相当(10%酸素濃度)のような厳しい低酸素環境に10分間暴露するだけで、脳内が低酸素状態となり、実行機能課題であるストループ課題成績が低下することを明らかにしている。運動実験に先立ち、厳しい低酸素環境への暴露による認知疲労と脳酸素運搬能が関連するか、検証した。 被験者6名が実験に参加し、事前に標高5,000m相当の低酸素ガス吸引を行った際に、眠気が増大し実験に支障が出ると判断した2名の被験者を除いた4名で解析をおこなった。常酸素環境と標高5,000m相当の厳しい低酸素環境に暴露し、暴露した際の前頭前野への血流供給に関わる中大脳動脈血流の平均速度、レーザーを用いた動脈血中酸素飽和度、呼気ガスの測定を行った。当初、採血をおこない、ヘモグロビン濃度、酸素分圧を測定する予定だったが、新型コロナウイルス感染症対策として、採血をもちいた侵襲実験を自粛したため、中止した。実験の結果、常酸素条件に比べて、低酸素条件では、動脈血中酸素飽和度(常酸素条件, 98.9±0.09%; 低酸素条件, 81.4±0.94%)、中大脳動脈血流平均速度(常酸素条件, 97.7±7.01cm/s; 低酸素条件, 90.5±6.08cm/s)が有意に低下し、低酸素環境に暴露することによる認知疲労は、脳への血流供給、血中の酸素濃度両面が影響する可能性が示唆された。
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