研究実績の概要 |
本研究では体罰の被害状況を把握するため各都道府県における体罰被害児童数の検討を行った。体罰に関する心理学的研究ではこれまで主に質問紙を用いて、体罰に関する意識調査が行われてきた (e.g., 兄井・永里・竹内・長嶺・須崎, 2014; 藤田・市川・福場, 2016) 。しかし、体罰の経験や,関連する態度を質問紙で測定することには限界がある。そこで本研究では実際の都道府県別体罰被害生徒数を用いて規定因の検討を行った。 これについて寺口・内田・大工(2018)では、各都道府県の学力テスト(小学校・中学校)が高いほど体罰被害児童数が少ないことが示された。ただし、この検討では各年度の違いが考慮されていない。そこで本研究では各都道府県を変量効果としたマルチレベル分析を行っている。「体罰に係る実態把握 (文部科学省, 2013-2022)」「全国学力・学習状況調査(国立教育政策研究所, 2013-2022)」を都道府県単位に集積し検討した。 その結果、2012年から2022年にかけて小学校・中学校での体罰被害児童数は約8000名から500名まで減少している。この体罰児童数の減少を学力テストの変化の推移を学力テストの偏差値で説明できるのかマルチレベル相関、一般化線形混合モデルで検討したところ、小学校の被害児童数については寺口他(2018)と同様に学力テストの偏差値が高いほど体罰被害児童数が少ないという関係が示された。本研究全体の仮説である、知性に基づく非人間化の可能性を示唆しているといえる。
|