水泳は、ヒトが水中を推進するための運動であり、泳ぐためには水という流体を操る技術が求められる。スイマーが不可視な水をどのように扱っているのかは不明であったが、近年では流体工学の可視化技術が導入され、泳中のヒトの推進メカニズム解明が可能となっている。本研究では、ヒトが泳げるようになる現象を捉えるために、この可視化技術を用いて未熟練者が泳技能を学習していく過程を縦断調査し、水から受ける力のメカニズムを流体力学的観点から記述することを目的とした。 粒子画像流速測定法(PIV法)を用い、2019年度には水中窓のある新潟医療福祉大学屋内プールにて計測環境を構築した。これまで、スイマー周りの流れを可視化するためには計測機器類の設置に制限があったため、回流水槽内での計測しかできなかった。今回、独自構築した手法で、水中ミラーを駆使した観測領域拡大に成功し、フィールド環境でも泳者周りの流れの可視化が行えるようになった。 2020年度はスイマーの推進メカニズム解明を目指し、屋内プールにおいてクロール泳中のスイマー手部周りの流れを矢状面で可視化した。その結果、ストローク動作のインスイープからアウトスイープへ方向転換した直後に、手掌から手背へ向かって回り込むような渦の様子が初めて観察された。同様の様子は、キック動作においても観察され、渦の作り方が推進力に関係していることを突き止めた。 2021年度には同計測を用いて、熟練者と未熟練者の流れ場の比較を行った。その結果、特に足部周りで顕著だったのは、推進力を発生させるジェットの方向が、熟練者ほど水平になっており、未熟練者はより下方向へと水の流れを発生させて非効率的な推進を行っていること、加えて未熟練者では筋活動量が大きく、無駄な動きであることが示唆された。
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