本研究の目的は、野球のバッティング動作中の体幹部についてスポーツバイオメカニクスの観点から分析することで、投手側の腹斜筋における肉離れの受傷メカニズムの解明に寄与する基礎的資料を獲得することであった。 男子大学野球選手30名に最大努力によるティーバッティングを行わせ、ティーバッティング動作および左右の足部に作用する地面反力をモーションキャプチャーおよびフォースプレートによってそれぞれ記録した。そして、ボールインパクト後における体幹関節(体幹を上下に分割する仮想関節)に関するスポーツバイオメカニクス的変数とバットヘッドスピードとの関係について明らかにした。 その結果、野球のバッティングにおけるボールインパクト後では、体幹を捕手側へ回旋させるトルクによるパワーが負であることが明らかになった。加えて、ボールインパクト直後のバットヘッドスピードと体幹を捕手側へ回旋させるトルクのピーク値、体幹を捕手側へ回旋させるトルクによる負のパワーのピーク値との間にそれぞれ有意な相関関係が認められた。これに対して、ボールインパクト直後のバットヘッドスピードと体幹関節の運動学的変数、体幹関節トルクによる力学的仕事との間にそれぞれ有意な相関関係は認められなかった。これらの結果から、野球のバッティングでは、ボールインパクト後において体幹を捕手側へ回旋させる主動筋である投手側の外腹斜筋が伸張性収縮していると考えられる。また、ボールインパクト後のバットヘッドスピードが大きいほど、腹斜筋を肉離れする可能性が高いことが示唆された。 本研究の成果は、2021年11月に開催された日本バイオメカニクス学会・第27回大会で発表され、International Society of Biomechanics in Sportsが発刊する国際誌「Sports Biomechanics」への掲載が決定している。
|