本研究課題における2020年度の成果は、研究調査によって取集されたデータに基づいて、質的研究方法を用いた論文2本の公開が挙げられる。2本の論文のうちの一つは、アンドリュー・ベルナール氏が実施しているエメルシオロジーの研究方法に対して、スポーツ運動学の研究方法からの対照考察を行ったものである。本来であれば前年度に実施した彼の研究不法で取得したデータを用いた論文作成を目指すべきであったが、その前段として研究の方法論に対する批判的な考察が必要となり、そちらを優先した。もう一つの論文は、対照競技研究者2名との共著であるが、質的研究方法の一つである現象学の本質直観の方法を用いた、体操競技女子ゆかの演技に対する本質規則性の考察である。本質直観という方法を用いた研究は、医療現場等で用いられることが多く、もちろんスポーツ運動学でも様々な論文で用いられているが、今回改めて、本研究のために自らがそれを用いて論文を作成した。いずれも本研究課題の目的の達成を示すものと言える。様々な質的研究の方法を実際に試行し、その成果を反省的検討にもたらし、それによる研究論文の作成までのマニュアル的なプロセスを構築できたことが収穫であった。 本課題の研究期間を通じて得られた成果自体は、前年度を含めて3本の論文として示された。しかしながら、コロナ禍の影響から海外渡航による現地調査と現地研究者との交流が断念され、その部分の研究計画が遂行されなかったことは残念であった。ただ、海外の研究者との交流は、Web会議システムの利用によって一部達成された。とは言え、質的研究の本質であると考えられる「研究者自身の現場へのコミット」が遂行しづらくなったことは、コロナ禍の大きな問題として残ったと言える。今後、この点を含めて、さらに質的研究の方法を検討し、新たな構築を目指すこととなる。
|