本研究の目的は,学生アスリートの有するコンピテンシーを明らかにした上で,学生アスリートの教育支援に資するための授業モデルを構築することであった.そのために本研究では,質問紙調査,面接調査などを組み合わせ,質的・量的研究の両面から研究課題の達成に努めた. まず,言説分析を通して,日本における学生アスリートの社会的位置づけを検討した.大学紛争を通して学生アスリートに対するイメージ形成が進み,さらに「体育会系」という呼称が付与されたことによって,一般学生とは違う「特別な存在」としての学生アスリートの位置づけが明確になった. 次に,学生アスリートの大学入学後のキャリア形成の実態について,「進路選択に生じる悩み」や「キャリア観」に着目して検討した.その結果,学生アスリートに特有のキャリアが,一部の学生アスリートにとっては「スポーツしかしてこなかった=経験や能力の乏しさ」として意識化され,そのことが進路選択の悩みやキャリア観の形成につながっていることが明らかになった. そして,学生アスリートのキャリア形成に関わる入試制度としてスポーツ推薦入試に着目し,制度成立後の拡大過程と計量的な実態の把握を試みた.その結果,スポーツ推薦入試の制度的特質として,大学経営上の理由に強く影響を受けること,「隠される制度」としての一面を有すること,「競技実績」に基づく能力主義を原理とする入試制度であることなどを明らかにした. 以上の知見を踏まえ,学生アスリートに特有のコンピテンシーを整理するとともに,キャリア形成に資するための支援策を検討した.学生アスリートの競技経験は,必ずしもキャリア形成に対する自信につながるわけではないことから,学生アスリートが築いてきたキャリアへの理解を深めながら,大学卒業後の社会生活の困難さについてもリアリティをもって教えていくことが重要であると考える.
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