剣道初心者に限られた授業時間内で熟練者のような気剣体の一致した打突を修得させることは非常に難しい課題である。初心者の打突動作の特徴として、踏み込み後に竹刀による打突を行う動作順序が一般的であり、熟練者のように打突後に踏み込みを行う動作順序を初心者が行う事例は少ない。 初年度は、剣道初心者を対象に同じ重さで長さの異なる3種類の竹刀(114cm、117cm、120cm)を用いて面打突を行わせ、打突と踏み込みの時間差から操作性の異なる竹刀による気剣体の一致への影響を検証した。その結果、竹刀の長さの違いによる打突と踏み込みの時間差に差は認められなかった。しかし、踏み込みと打突の順序は入れ替わらないものの身長に対する竹刀の長さが短いほど打突と踏み込みの時間差が短縮されることが明らかとなり、熟練者のような動作に近づく知見が得られた。 最終年度は、前年度と同様に異なる3種類の長さの竹刀を用い、さらに重りを剣先側、竹刀重心位置、柄頭側の3箇所に貼付した計9種類の操作性の異なる竹刀を用いて、面打突時の時間差を検討した。仮説としては、柄頭側に貼付した条件が竹刀操作が行いやすく、時間差が短縮すると想定したものの、重りの貼付位置の影響は認められなかった。次に、打突と踏み込みの時間差の変動誤差を検討した。変動誤差は、値が大きいほど試技毎の打突と踏み込みの時間差にばらつきがあることを示し、小さいほど安定した打突動作が行えていることを意味するものである。検討した結果、長い竹刀の方が変動誤差が大きくなるものの短い竹刀との有意な差は認められず、打突動作の安定性(打突と踏み込みのタイミングの差)には竹刀の長さの影響は認められなかった。 現在は動作分析によって身体のどの部分に竹刀操作の影響が見られるか検討中である。今後の実験では、変動誤差の大きくなる関節運動を同定し、気剣体の一致に影響を及ぼす要因を明らかにする。
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