我々はこれまで、急性心筋梗塞患者の超急性期に、肥満症や糖・脂質代謝異常を改善するエネルギー代謝調節因子として知られている線維芽細胞増殖因子 (FGF) 21の血中濃度が、遊離脂肪酸濃度と同様に著明に上昇すること見出した。また、培養心筋細胞 (CM)に飽和脂肪酸であるパルミチン酸・ステアリン酸を刺激することでFGF21の発現増加を認め、このFGF21の発現上昇には、エネルギー代謝調節因子であるAMPKの活性化や、長寿遺伝子として知られる細胞内栄養センサーSIRT1の発現上昇が関与することを明らかにした [Sunaga H et al. Sci Rep. 2019]。 さらに、心不全および急性心筋梗塞患者の血中でケトン体 (βOHB)濃度が大幅に上昇し、この上昇はFGF21と強く相関することを見出した。そこで我々は、CRISPR-Cas9システムで作成したFGF21全身欠損マウスを用いて、絶食時の心臓におけるエネルギー代謝因子の解析を行った。その結果、FGF21欠損マウスの心臓では、絶食時に細胞内エネルギー代謝を調節するmTORの発現上昇、および脂肪酸代謝を調節するPPARαの発現増加が認められた。この発現変化には、FGF21欠損による心筋内の活性酸素種 (ROS)の増加が関与しており、また、酸化ストレス応答因子Nox4や抗酸化因子Nrf2およびcatalaseの発現が上昇することを明らかにした。さらに、培養CMへのケトン体刺激によりFGF21やPPARαの発現が著明に増加し、ケトン体はPPARαのリガンドとして作用することが明らかとなった。 以上の実験結果から、血中FGF21とケトン体の濃度上昇が、脂肪酸代謝調節因子PPARαの心臓における発現誘導シグナルとなり、酸化ストレス応答因子の発現を制御することで心疾患の病態形成に保護的に作用する可能性が示唆された。
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