研究課題/領域番号 |
19K20114
|
研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
萬成 誉世 奈良女子大学, 生活環境科学系, 助教 (90805128)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 食環境 / 幼少期 / 加圧加熱処理 / 社会性行動 / セロトニン / トリプトファン |
研究実績の概要 |
食の時代である現代において、「何をどれだけ食べるのか」という問いは、我々にとって非常に重要な課題である。幼少期における“食”は、身体の発達や味 覚の形成、食習慣の獲得等に重要であるが、脳の発達や心の形成にも非常に重要な役割を担っていると考えられる。そこで、本研究では、幼少期における食が生育後の行動や中枢神経系に及ぼす影響について、分子レベルから行動レベルまで生物階層性の段階を追って研究を行う。今年度は、 離乳後から加圧加熱処理を行ったタンパク質を長期間摂取させ、生育後の行動への影響について検討を行った。加圧加熱処理したタンパク質には、食品加工の場で高頻度に使用されている分離大豆タンパク質を121℃、20分間オートクレーブ処理したもの(A-SPI)を供した。A-SPIを含む飼料を調整し、4週齢よりマウスに摂取させ、A-SPI群とし、加圧加熱処理をしせずに同様に調整した飼料を摂取させた群を対照群とした。9週齢以降において、Three-chamber social testを行い、社会性行動への影響を調べた。その結果、対照群と比較し、A-SPI群では、Social novelty sessionにおいて、社会性行動の異常が見られた。また、社会性行動の調節に関与が知られているセロトニンについて、血漿中濃度の低下が認められた。さらに、セロトニンの前駆物質であるトリプトファンについて、A-SPI経口投与2時間後の血中濃度を調べた結果、対照群と比較し、トリプトファン量の低値が認められた。これらの結果、A-SPI群では、トリプトファン欠乏により、セロトニン不足が引き起こされ、社会性行動の異常を誘引する可能性が示唆された。現在、中枢神経系への影響を検討中であり、本研究の遂行により、幼少期からの長期的な加圧加熱処理タンパク質の摂取が生育後の社会性行動へ影響を及ぼす分子基盤の解明を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は幼児期における高脂肪低糖質食摂取の影響について、検討を行っていたが、行動試験の結果、有意な差は認められたかった。そのため、計画を一部変更し、今年度は、加圧加熱処理したタンパク質に注目し、幼少期からの長期摂取の影響を検討した。本研究の結果、加圧加熱処理タンパク質の長期摂取による社会性行動への影響や血漿中セロトニン量の減少が明らかとなり、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
幼少期からの加圧加熱処理タンパク質の長期摂取により、生育後の社会性行動への異常が明らかとなってる。脳内のセロトニンは社会性行動の調整に関与することが知られているため、加圧加熱処理タンパク質の摂取よる脳内でのセロトニン経路への影響について検討を進める。すでにサンプリングをしている脳を用いて、免疫組織化学、ウエスタンブロット、リアルタイムPCR等を用いて、セロトニン細胞や受容体の発現への影響について調べる。さらに、これらの結果を踏まえて、生育後のトリプトファンの補給によって、社会性の回復や中枢神経系のセロトニンへどのような影響を及ぼすか検討を進めたいと考えてる。 また、トリプトファンと同様に芳香族アミノ酸であるチロシンは、ドーパミンの前駆物質である。A-SPI中の含有アミノ酸量を調べた結果、チロシンの減少も認めらたため、ドーパミンについても検討を行い、嗜好性行動などへの影響についても検討を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言等により、出張の禁止など実験施設が予定通り使用できるか不透明な部分もあり、実験実施計画を調整する必要があったため、購入予定であった抗体等の試薬の購入が遅れたためである。 次年度に実施予定であるため、実験計画に合わせて必要な試薬の購入に次年度使用する予定である。
|