飽食の時代である現代において、「何をどれだけ食べるのか」という問いは、我々にとって非常に重要な課題である。幼少期における“食”は、身体の発達や味覚の形成、食習慣の獲得等に重要であるが、脳の発達や心の形成にも非常に重要な役割を担っていると考えられる。そこで、本研究では、幼少期における食が生育後の行動や中枢神経系に及ぼす影響について、分子レベルから行動レベルまで生物階層性の段階を追って研究を行う。 これまでの研究において、レトルトパウチ食品の殺菌方法などに用いられている加圧加熱処理を行ったタンパク質含む飼料を離乳後から長期間摂取させることによる影響について検討をしている。加圧加熱処理したタンパク質には、食品加工の場で高頻度に使用されている分離大豆タンパク質を121℃、20分間オートクレーブ処理したもの(A-SPI)を供した。A-SPIを含む飼料を調整し、4週齢より摂取させた実験動物(C57BL/6Jマウス)を作製した。9週齢以降において、Three-chamber social testを用いた社会性行動を含む種々の行動試験を行い、A-SPI摂取による影響を検討した。その結果、A-SPI摂取群では、Social novelty sessionにおいて、社会性行動の異常を確認した。また、社会性行動の調節に関与が知られているセロトニン量が血中において低下が認められている。セロトニンの前駆物質であるトリプトファンにおいても摂取後の血中増加量の低下を認められており、A-SPI摂取によってトリプトファン欠乏が生じている可能性を示唆している。本研究の遂行により、幼少期からの長期的な加圧加熱処理タンパク質の摂取が生育後の社会性行動へ影響を及ぼす分子基盤の解明を目指す。
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