研究実績の概要 |
受動喫煙に曝された小児は成長期に肥満を来しやすいことが報告されており(厚生労働省 21世紀 出生児横断調査特別報告2017), 幼若期の環境因子と成人期の肥満症リスクの関連性を解明するライフコース研究が注目されている.マウスを用いた基礎的研究から幼若期のニコチン暴露が脳内報酬系の失調を介して飲酒量を増加させること、動物性脂肪が報酬系の2型ドパミン受容体遺伝子(D2R)のエピゲノムを介して動物性脂肪依存を来すことが明らかとなっている(Thomas AM, Cell Rep 2018, Kozuka C, Diabetologia 2017). 機能的MRIを用いた臨床研究では肥満者の脳ではD2Rの発現低下を伴って食後の報酬系の活性化が減弱しており, 報酬系の調節不全は体重増加の予測因子となる可能性がある(Stice E et al. J Neurosci 2010).これらを踏まえ, 本研究では幼若期マウスに対するニコチン暴露が成獣期の食行動や報酬系機能に及ぼす影響を検討した. 4週齢C57BL/6J雄性マウスに浸透圧ポンプを装着し,ニコチンを2週間投与した. 9週齢までは通常餌, 10週齢から高脂肪餌を与えて体重, 摂餌量を評価した. 成獣期ニコチン暴露モデルには8週齢マウスにニコチンを2週間投与して評価した. 結果は幼若期ニコチン暴露群では対照の生食群と比べて成獣期の高脂肪餌下の体重, 摂餌量、血糖値が増加し(p<0.05), 線条体のD2RのmRNAや蛋白発現が低下していた(p<0.05、p<0.05). 一方, 成獣期ニコチン暴露モデルではこれらの変化は観察されなかった.幼若期のニコチン暴露が報酬系機能分子群の発現レベルを変化させ成獣期の高脂肪食性肥満を増悪させた. 本研究は,幼若期の環境が成人期の生活習慣病のリスクを高める新規脳内分子機構として注目される.
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