上市されている既存の認知症治療薬では、認知症の完治は望めない現状がある。世界的にも認知症患者数は年々増加し、認知機能改善薬や予防方法の開発が望まれている。そこで本研究では、認知機能改善効果や予防方法の開発の足掛かりとなることを期待して、ヒト中枢神経細胞を用いた、神経細胞の増殖や酸化ストレスに対する保護作用を有する機能性物質の探索及びそのメカニズムの検討を行った。前年度までに食品成分であるシアニジン‐3‐グルコシド(C3G)が抗老化因子であるSirt1の発現量の増加及び活性化、ならびに酸化ストレスが誘導する複数の形態の神経細胞障害を抑制することを明らかにした。また、抗酸化因子であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やカタラーゼ(CAT)の発現量を増加させることも明らかにしている。当該年度は、これらの発現を制御するとされている酸化ストレス応答因子であるNrf2の発現量の増加および活性化、さらにはNrf2ノックダウン細胞におけるC3Gの酸化ストレス誘導細胞障害に対する細胞保護作用の減弱を明らかにしている。これらの結果から、C3GはNrf2を増加及び活性化し、Sirt1の活性化やSOD及びCATを増加させ、酸化ストレス誘導細胞障害を抑制することにより、神経細胞を酸化ストレスから保護することが示唆される。
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