研究課題/領域番号 |
19K20136
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
Hu Di 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (60758580)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 慢性疲労 / ストレス / 内分泌異常 / グレリン / レプチン / 食欲制御 / 摂食行動 |
研究実績の概要 |
慢性疲労症候群は、人々の日常的社会活動に支障をきたすだけではなく、過労死やうつ病、自殺など深刻な社会問題も引き起こしている。しかし、慢性疲労症候群の詳細な発症メカニズムは未だに分かっておらず、根本的な治療方法は確立されていない。我々は疲労の慢性化形成機序を明らかにするため、独自に慢性疲労モデルを開発した。 この慢性疲労モデルにおいて、動物を8日間・14日間水浸負荷させた後に血中レプチン濃度が大幅に低下し、グレリン濃度が上昇した。レプチンは視床下部を介し交感神経を活性化させ、摂食抑制・エネルギー消費増加すると報告され、グレリンは交感神経に抑制的に働くと知られている。このため、グレリンの上昇とレプチンの低下は交感神経を抑制すると考えられる。しかし、本研究に使用した慢性疲労モデルは疲労負荷の過程で、交感神経が優位に活性化された。つまりレプチン・グレリンの交感神経に対する制御が慢性疲労の過程において異常となり抑制制御できない状態であることを示した。この慢性疲労モデルにグレリン受容体阻害剤を皮下注射した所、自発行動量の回復に有意な改善が認められた。一方、血中レベル低下したレプチンを慢性疲労モデルに皮下補充すると、摂食量が一時抑制されたものの、のちに有意に増加に転じた。また自発行動量が大幅に改善され、慢性疲労による回復遅延が認められず、レプチン補充による抗疲労効果が強く示唆した。両ホルモンの摂食制御神経が慢性疲労形成時の脳内神経において重要な役割を果たしていることが示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染拡大の影響を受け、所属研究所の研究活動指針を踏まえ、本研究に必要な慢性疲労モデルの作製(作製期間:14日)が難しくなり、当初の予定より実験のペースに遅延が生じた。そのため、今年度に予定していた課題「慢性疲労時の自律神経機能変化およびレプチン・グレリンの関与」が皮下投与等の条件検討を行ったものの、レプチンリコンビナント蛋白質・グレリン阻害剤の脳内投与による慢性疲労時の自律神経機能に対する変化の検討が行っていない。 現在まで、テトメトリーシステムを用いて、慢性疲労モデルの自律神経機能の測定を行った。慢性疲労モデルを作成する1週間前にテレメーター(F50-EEE)を頚背部皮下に外科的に埋入した。このテレメーターは心拍数のほか、深部体温と活動量を測定できるため、これらのパラメーターを使い手術の影響がなくなることを確認した上で、慢性疲労モデル作製を開始した。一方、慢性疲労モデルの作製期間(14日間)が長く、動物をずっと水浸負荷させるため、ストレスによるテレメートリー術後瘢痕の癒着不良やグルーミングによる縫合口の炎症発生等の問題が生じ、術式や埋め込み場所の再検討が必要である。心電図の心拍変動解析を用いて、交感神経と副交感神経の両方の活動を反映するLFパワー、副交感神経の活動を反映するHFパワーおよび自律神経バランス指標(LF/HF比)の慢性疲労時の経時的変化を検討した。 また、弊所が所有しているPETイメージングスキャン装置が経年劣化による修復が多くなり、PETイメージング実験が予定しづらい状態にあって、さらに新型コロナ感染拡大の影響で放射線標識化合物を合成するスタッフらも在宅勤務となった。そのため、今年度に予定していたセロトニントランスポーター[11C]DASBの頭部スキャンおよびARG(autoradiography)実験を見合わせしている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度レプチンリコンビナント蛋白質およびグレリン阻害剤の慢性疲労モデル腹内投与実験を行った。グレリン受容体阻害剤を皮下注射した所、自発行動量の回復に有意な改善が認められた。一方、血中レベル低下したレプチンを慢性疲労モデルに皮下補充すると、摂食量が一時抑制されたものの、のちに有意に増加に転じた。また自発行動量が大幅に改善され、慢性疲労による回復遅延がほとんど認められず、レプチン補充による抗疲労効果が強く示唆した。今後、両ホルモンの慢性疲労時の自律神経機能に対する影響を明らかにするために、テレメートリーシステムを用いて、慢性疲労モデルの自律神経機能を測定し、レプチンリコンビナント蛋白質・グレリン阻害剤の脳内投与を行い、投与前後の交感神経・副交感神経のバランスや自発行動量の変化を観測する。腹内投与時の抗疲労効果と比較しながら、レプチン・グレリンの慢性疲労形成における意義を明らかにする。 さらに、PETイメージングを用いて、慢性疲労によるレプチン・グレリンの中枢神経変調を捉え、関連領域を特定する。そのため、以下の実験を行う。慢性疲労モデルの疲労負荷期間を3日間・8日間・14日間にそれぞれ作製し、PETイメージングを行う。現在までPETプローブ[18F]FDGを使用し、14日間慢性疲労動物頭部スキャンを行った。しかし、予定していたセロトニントランスポーター[11C]DASBの頭部スキャンおよびARG(autoradiography)実験が、自身の所属変更に伴い現職の大学では、PETイメージングを遂行する施設がないため、内容変更をせざるを得ない。 これまで見出したレプチン・グレリンの抗疲労効果について、再現実験(2回程度)を実施するとともに、データのまとめおよび論文の作成、投稿等を行う予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大の影響を受け、昨年度に予定していた実験の一部がしか実行出来なかったので、次年度の実験計画に順延することにした。実験は使用計画より進展がやや遅れている。モデル動物へのリコンビナント蛋白質、阻害剤の長期投与条件が予想より難しかった。特に動物頚背部皮下に浸透圧ポンプを埋入し、頭部に固定するガイドカニューレと繋ぐ実験において、投与タイミングと投与濃度等の実験条件を複数回にわたって検討した。そのため、本番の実験まだ行えない状態である。また、慢性疲労モデルの作製期間(14日間)が長く、動物をずっと水浸負荷させるため、ストレスによるテレメートリー術後瘢痕の癒着不良やグルーミングによる縫合口の炎症発生等の問題が生じ、術式や埋め込み場所の再検討が必要である。 それにより、次年度にレプチンリコンビナント蛋白質・グレリン阻害剤の脳内投与による慢性疲労モデル自律神経機能に対する影響実験を行う。関連試薬や実験機材、実験動物等を購入するため、次年度使用額が生じた
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