研究課題
最近、エピジェネティクスと摂食障害の関係が注目されている。エピジェネティクスとはDNA塩基配列の変化を伴わない、後天的な遺伝子の修飾機構(DNAメチル化、ヒストンアセチル化など)のことである。特にヒストンがアセチル化された領域ではDNAの巻き付きが緩むために転写が亢進されるが、ヒストンアセチル化酵素(HDAC)によりアセチル化されると転写が抑制される。これまで一部のGタンパク質共役型受容体(GPCR)とHDACが相互作用すると報告されているが、食関連GPCRとHDACの関係については全く不明であった。そこで本研究では摂食亢進GPCRとしてメラニン凝集ホルモン受容体(MCHR1)に着目し、HDACとの相関関係を網羅的に解析した。今年度はまず、HDAC活性を測定したところMCH添加によりHDAC活性が低下し、MCHR1とHDACの相関関係が確認された。続いて、HDACの中でもMCHR1と同じ脳領域に発現が確認されているHDAC10に着目してMCHR1シグナル系がHDAC10に与える影響を解析した。その結果、MCH添加によりHDAC10のタンパク質、mRNA発現量が有意に低下することが判明した。さらに、細胞免疫染色においてMCH添加によりHDAC10の局在が変化することが観察された。次に、HDAC10がMCHR1シグナル系に与える影響を解析したところ、Gq経路の下流としてp-CREBの活性を抑制することが判明した。また、Gi/oを阻害する百日咳毒素を使用した際、HDAC10による効果に変化がなかったことから、HDAC10がGq経路に選択的に関与すると推測した。今後さらに詳細な分子機構を解明することでHDACと摂食関連受容体との関係が解明され、摂食障害や肥満の新たな治療戦略となることが期待される。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件)
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