近年、大企業を中心に健康経営の考え方が広まり、労働者に対する健康増進の取り組みが労働生産性や企業イメージの向上へつながる知見が生み出されつつある。しかし、全国規模で考えると企業数のほとんど、労働者数の7割を占めるのは中小企業であり、そこでは健康経営の取り組みが十分でないのが現状である。 本研究では、中小企業において身体活動を主眼とした健康経営モデルの創出を目指し、プログラムの作成、および効果の検証を行うこととした。研究課題1では、島根県内における中小企業において健康経営に関する認知や取り組み実態に関する調査を行った。主な結果として、認知度は高いものの、実行に移すことが難しいと感じている企業が多く、特に身体活動や栄養といった生活習慣に関することやメンタルヘルスに関することについての取り組みが少ないことが明らかとなった。 研究課題2では、これらの課題を解決しうるプログラムの開発を目指したが、新型コロナウイルスの流行に伴い、対面でのプログラムを開発・提供することが不可能な事態へ陥った。このことを受け、オンラインをメインとしたヘルスケアプログラムの開発および効果検証を行うこととし、研究を進めることとなった。具体的には、活動量計の配布、活動量データに基づくフィードバック、体力向上やコンディショニングのためのトレーニング動画の配信、マインドフルネス瞑想の動画配信、オンライン会議アプリを用いた参加者と指導者のミーティング、チャットツールによる参加者同士の交流を含む、多要素介入を行った。その結果、全体の平均としては身体活動量の増加はみられなかったが、頭痛や腰痛といった身体的不調の軽減、ワーク・エンゲイジメントの向上が見られた。特に身体活動量の増加が見られた者(全体の28%)においては、身体的不調の改善が顕著であった。
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