上部消化管癌手術による侵襲と消化管の形態変化は,患者の術後栄養状態を急激に悪化させる。中でも研究代表者は,食道癌患者では術前の段階で体重減少を始めとした栄養状態の悪化が生じており,術後1年間では体重の改善は認められないこと,さらに術後1ヶ月目の経口摂取量が新規の予後予測因子である可能性があることを明らかにしている。これらの結果は,経腸・経静脈栄養法による単なる栄養量の充足のみでは上部消化管癌手術後の低栄養状態や予後を良好に保つことは困難であることを意味している。そこで本研究では,同じ上部消化管である胃癌患者を対象に術後経口摂取量と栄養状態・予後の改善に寄与する因子の探索を目的に調査を開始した。調査項目は患者背景,食事摂取量(①術前及び術後3・6ヶ月目,②入院期間中の栄養摂取状況(経口・経腸・経静脈)),体組成分析,血液生化学検査データ,糞便サンプルを用いた腸内細菌叢解析とした。これらのデータより術後経口摂取の回復時期及び栄養状態開演時期との関連を評価した。 令和4年度は,継続して研究症例の集積及び術後調査を行い,胃切除による腸内細菌叢の変化と栄養状態との関連を評価し,結果の解析を実施することを目的としていた。依然として続く新型コロナウイルス感染症の影響により,被験者登録及び研究プロトコールの遂行に支障が生じているが,調査が完了した症例を解析し,得られたデータを概観した結果,調査期間内(術前から術後6ヶ月目)で胃癌手術患者の腸内細菌叢は変動し続けていることが考えられた。今後はさらに症例の集積を続け,得られた結果の公表を予定している。
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