本研究では、卵巣摘出による閉経モデルラットを作成し、女性ホルモンであるエストラジオール(E2)を補充することで、高脂肪食(HFD)誘発性肥満に与える影響を検討した。また、そのメカニズムを明らかにすべく、主に胃内分泌細胞で産生される摂食亢進ペプチドのグレリンに着目し検討を加えた。その結果、E2補充はHFD飼育下においてもエネルギー摂取量を調節し、抗肥満作用を発揮することが明らかになった。そして、HFD飼育下の閉経モデルラットに対するE2補充は、胃のグレリンとその受容体を減少させることによって、グレリンの摂食促進作用を抑制し、HFD誘発性肥満を改善することが示唆された。 また、グレリンには摂食亢進作用だけでなく、インスリン分泌抑制作用もあることが知られている。その結果、グレリンの関与は明らかにはならなかったが、HFDはE2欠乏下でインスリン感受性を低下させる一方、E2補充は骨格筋におけるプロテインキナーゼB(Akt)のサブタイプであるAkt2とその下流ににある分子量160kDaのAkt基質(AS160)の経路を活性化することで、インスリン感受性を改善する可能性を明らかにした。 若年女性を対象とした実験では、摂食刺激によるグレリン分泌反応に女性ホルモンが関与する可能性を検討したが、月経周期の3期間(月経期、排卵前期、黄体中期)で血漿グレリン濃度の差は見られなかった。一方で、グレリンと拮抗する作用をもつことで知られるレプチン濃度は、月経期と比較して排卵前期に有意に高値を示した。最終年度である2022年には被検者数を増やしたが、結果は変わらなかった。このことから、女性ホルモン濃度の変化がグレリン以外の摂食関連ホルモンに影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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