研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)でみられるProtein-Energy Wastingは脂肪萎縮や筋委縮を特徴とする病態で、予後の悪化につながることから発症の予防及び治療法の確立が求められる。本研究ではProtein-Energy Wasting発症メカニズム及び食事による代謝変動の解明を目的として、アデニン誘導性CKDモデルラットを用い、特に白色脂肪組織量減少に焦点を当て検討を行った。アデニンを混餌投与したラットでは著しい体重減少がみられた。アデニン投与群の白色脂肪組織量は減少しており、脂肪合成関連遺伝子の発現減少と脂肪分解関連遺伝子の発現増加が確認された。また、脂肪酸不飽和化酵素の発現減少と一致して、組織中及び血漿中の一価不飽和脂肪酸(C16:1, C18:1)量が減少し、飽和脂肪酸(C20:0, C22:0)が増加することを見出した。しかしながら、他グループによりヒトCKD患者では血漿中の一価不飽和脂肪酸が増加し、心血管疾患発症リスクが高まることが報告された。ヒトにおけるCKD発症メカニズムは様々な要因が複雑に関与しているため、本研究でみられた一価不飽和脂肪酸の合成能の低下及び血漿中濃度の減少は腎臓の機能障害を起因とした代謝変動の結果として考えられる。アデニン投与期間終了後、標準食(C:62%, F:17%)に切り替えた4週後も体重の回復はみられなかったが、不飽和脂肪酸を主体とした高脂肪食(C:40%, F:40%)を摂取させたところ、体重減少の回復がみられた。白色脂肪組織量は標準食群に比べ増加しており、脂肪分解関連遺伝子の発現上昇が抑制されていた。一方脂肪合成関連遺伝子の発現低下は増強されており、一価不飽和脂肪酸量は標準食群に比べ減少していた。3T3-L1細胞においても同様の結果が観察され、高脂肪食摂取群では脂肪分解シグナルの抑制により脂肪組織量が増加したと考えられた。
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