非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と酸化HDLの関連は未解明である。我々は酸化HDLが肝培養細胞で脂肪滴を形成させ、その脂肪滴は酸化されていることを見いだし、酸化HDLがNASHの発症に関係する可能性を考えた。本課題ではヒト培養肝細胞を用いる生化学実験により、酸化HDLがNASHの発症機序にどのように関係するかを検証することを目的とした。2019度は、酸化HDLの肝細胞に対する毒性を確認した。細胞中の過酸化脂質(TG-OOH)を質量分析により測定し、酸化HDL添加でTG-OOHの増加が確認できた。また、酸化HDL群では、過剰な脂肪蓄積を防ぐために、脂肪酸合成及び脂肪滴合成が抑制される可能性が示唆された。2020年度は、oxHDLがミトコンドリアに与える影響を中心に調査した。ミトコンドリアの代謝に関連する遺伝子を標的として遺伝子発現を解析したところ、酸化HDL群ではNRF1は有意に減少し、PGC1αは減少傾向を示した。また、ミトコンドリア染色による形態観察において、コントロール群ではミトコンドリアが線状であったのに対して酸化HDL群では球状を示した。球状のミトコンドリアは脂肪肝で見られるという過去の報告と一致し、球状のそれはエネルギー代謝が低下する場合に起こると考えられる。ミトコンドリアの融合に関与するMFN2遺伝子の発現量が酸化HDL群で有意に低下したことから、この低下が融合の抑制に働いてミトコンドリアが球状を示した可能性があると考えられた。2021年度は同様の細胞実験の条件で、酸化HDL群において、質量分析により細胞内TG(-OOH)2やPC(-OOH)2の増加、遺伝子発現解析によりTNFαの増加を見いだし、強い酸化ストレスや炎症の亢進を示唆する知見を得た。これまでの結果から、酸化HDLは脂質代謝のみならずミトコンドリア代謝の変化をもたらす可能性があることが示唆された。
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