研究課題
運動は身体だけでなく脳、とりわけ学習・記憶を担う海馬にも有益な効果をもつことが明らかになるにつれ、認知症予防策としても注目される。申請者はこれまで、健常若齢者を対象にした研究から、ヨガや太極拳などの軽運動を模した一過性の超低強度運動(最大酸素摂取量の37%以下)が記憶能を向上させること、その神経基盤として海馬の記憶システムが上方調節されることを高解像機能的MRIを駆使して明らかにした。この結果は、超低強度運動は記憶機能が低下した高齢者にも有効であることを示唆する。本研究は、これまでに確立した実験モデルを応用し、超低強度運動が高齢者の海馬記憶能に与える効果とその脳内メカニズム解明(プロジェクト1)、加えて、現場への実装を念頭に、軽運動の効果をより高めることを狙いとした、音楽に合わせた楽しい軽運動プログラムの開発(プロジェクト2)を目指す。初年度は、本格的に実験を開始するための準備として、以下の通り各プロジェクトを推進した。プロジェクト1では、これまで若齢者を対象に開発した記憶機能テストを高齢者用に改編した。本テストでは、日常生活で目にする物体の静止画を提示し記銘させるが、物体への親密度は記銘成績に影響を与えることから注意が必要である。高齢者を対象に、本テストで用いる物体の静止画への親密度を調査した。その結果をもとに改編した画像集を用いて本実験で用いる記憶機能テストを作成した。プロジェクト2では、既存のスローエアロビックの効果を最大化するための方略を検討した。過去の実験データを再解析し、音楽に合わせた運動が認知機能を向上させる効果には、気分(活性度)が向上するかどうかが影響することが明らかになり、運動プログラム実施の際のチェックポイントとして有用性が高まった。また、運動動作の教示法についても検討し、自宅で実施できる教示映像を作成した。
3: やや遅れている
プロジェクト1では、初年度の後半で実験を開始する計画であったが、記憶機能テスト改編に計画以上に時間を要したこと、新型コロナウイルスの影響により2月以降には実験ができなかったことから実験を開始することができなかった。プロジェクト2は、ほぼ計画通りに進行している。
所属先の異動によい新たに必要な設備備品があるため、早急に準備を進める。また、実験については、感染症の影響を見ながら再開したい。実験再開が大幅に遅れる場合には、プロジェクト2の運動プログラム開発を充実させるなど、適切なタイミングで計画を変更し、最終目的達成に近づけるように努める。
初年度に計画していた実験が開始できなかったため、被験者や実験協力者への謝金、実験消耗品などに使用することができなかった。次年度に繰り越し、適切なタイミングを見極めて実験を再開したい。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
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