申請者はこれまで、健常若齢者を対象にした研究から、ヨガや太極拳などの軽運動を模した一過性の超低強度運動(最大酸素摂取量の37%以下)が記憶能を向上させること、その神経基盤として海馬の記憶システムが上方調節されることを高解像機能的MRIを駆使して明らかにした。本研究は、超低強度運動が高齢者の海馬記憶能に与える効果とその脳内メカニズム解明を目指す(プロジェクト1)。加えて、現場への実装を念頭に、軽運動の効果をより高めることを狙いとした、音楽に合わせた楽しい軽運動プログラムを開発する(プロジェクト2)。3年計画の3年目となる令和3年度は、コロナ禍により計画を変更し、以下の通り各プロジェクトを推進した。 プロジェクト1では、昨年度までに、初年度に実施した調査結果を元に海馬機能を測定する記憶テストを高齢者用に改編し、これを用いて海馬記憶能と有酸素能、身体活動量との関係性を健常高齢者を対象に横断的に検討した。その結果、海馬機能の指標とされる類似物体識別スコアは中高強度運動時間や安静時間とは関連しなかった一方、低強度運動時間と関係性が見られた。これを受けて今年度は、健常高齢者を対象に、一過性の超低強度ペダリング運動が海馬の記憶機能に与える効果を検討した。コロナ禍により計画通りに被験者数を確保することができなかったため、統計的有意な結果は得られていないが、超低強度運動後に類似物体弁別スコアが向上する傾向が見られた。 プロジェクト2では、音楽に合わせた軽運動プログラムを思案した。昨年度得られた知見を元に、心理的な活性度を高めるように音楽や動作を工夫した。試作したプログラムは少人数での対面指導やオンライン会議システムを活用して試行し、気分尺度を用いて運動前後の気分変化を測定した。
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