研究課題/領域番号 |
19K20178
|
研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
小池 博之 日本医科大学, 医学部, 助教 (20821771)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | サルコペニア / 骨格筋 / マクロファージ / シングルセルRNAシークエンス |
研究実績の概要 |
サルコペニアは、筋再生不全を背景として発症し、高齢者の体力を低下させる大きな要因となる。損傷を受けた筋組織では、骨格筋特異的な組織幹細胞(筋衛星細胞)を主体とした筋修復と、炎症・炎症収束とが生じており、筋再生が正常に進行するにはそれらが適切に制御されることが必須であるが、その制御機構の実態は未解明である。そこで、本研究で申請者は筋損傷後の炎症を誘導するマクロファージの機能変化と筋衛星細胞による再生過程の関連性に着目し、それら細胞間相互作用の解明を試みている。 これまでに、組織修復過程における筋衛星細胞とマクロファージとの空間的配置情報を取得するため、マクロファージ特異的な蛍光レポーターマウス(Iba1-EGFP)を対象にCUBIC法を用いた組織透明化処理を行い、共焦点レーザー顕微鏡を用いて筋組織中の3次元的な局在情報を取得した。また、カルジオトキシンの投与による筋損傷モデルを作出し、フローサイトメトリーおよび免疫化学染色を行った。これらの結果、損傷後3日目にIba1などを発現するマクロファージの数のピークが確認されるとともに、筋衛星細胞と近接しながら筋線維の再生を促していることが観察された。 そこで、損傷後3日目の筋組織中の筋衛星細胞、マクロファージおよび周囲の間葉系細胞を対象とした包括的シングルセルRNAシークエンスを実施した。得られた遺伝子発現プロファイルを元に相互作用解析を行った結果、筋衛星細胞が増殖を亢進するためにマクロファージ・間葉系細胞から受け取っているシグナル経路の候補を特定した。現在同定された候補分子の機能をin vitro評価法にて、インヒビター実験およびノックアウト実験により検証を行っている。 本研究により得られた知見は、加齢や代謝異常に起因する筋再生の破綻についての理解を深め、新たな治療標的分子の同定につながることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書に沿って、1年目に行う予定であった計画を遂行した。具体的には、マウス骨格筋損傷モデルを用いた組織学的解析については、時系列的な細胞の存在頻度と局在の変化を追跡することに成功している。また、シングルセルRNAシークエンス解析については、10X Chromiumを用いて損傷時の骨格筋をサンプルとしてシークエンス解析の実施を完了した。得られたシークエンスデータは、マクロファージの多様なサブタイプがどのように骨格筋幹細胞と作用しているか明らかにすることを目的に、Seuratなどのツールを用いた解析を行った。これらの成果をもとに、次年度についても当初の計画書に沿って研究を進行していくことが期待できる。 以上のことから、現在までの進捗状況は、計画書に従っておおむね順調に進展しているものと判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策については、当初の計画書通りに進行する予定である。これまでに完了したシングルセルRNAシークエンス解析の結果をもとに、重要と考えられる候補パスウェイの機能解析に着手している。具体的には、インヒビターとCRISPRシステムを用いたノックアウト細胞を作出し、実際に骨格筋再生に寄与するかの検討を進めていく予定である。また、並行して、最新の解析手法を用いて、随時シングルセルRNAシークエンスデータを解析することを並行していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度には、新規の試みであるシングルセルRNAシークエンス解析を実施した。現段階での当該解析結果は良好であったため、より解析の深度を上げることを目的に、次年度に同様の手法を用いて追加の解析を実施する。
|