ω6系不飽和脂肪酸アラキドン酸の代謝産物であるプロスタグランジン(PG)E2の過剰産生によって、急性や慢性の炎症が引き起こされる。病態時のPGE2過剰産生に関わる誘導型シクロオキシゲナーゼ(COX)-2とミクロソーム型PGE合成酵素(mPGES)-1を標的として、炎症の予防や改善を目的とした食品機能性の探索に取り組む中で、植物ステロールのジオスゲニンにその効果を見出した。 本研究では、炎症や癌のモデル細胞と、急性あるいは慢性炎症性疾患モデルマウスを用いて、ジオスゲニンの効果を検討した。まず、モデル細胞を用いた検証において、ジオスゲニンは、グルココルチコイド受容体(GR)を介してCOX-2とmPGES-1の発現を抑制することを明らかにした。さらに、リポ多糖(LPS)誘発急性肝障害モデルと、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)様モデルマウスを用いた検証において、両モデルマウス肝臓でのPtgs2(COX-2)とPtges(mPGES-1)の発現が上昇し、特に肝類洞のマクロファージと血管内皮細胞に高発現していることが分かった。また、ジオスゲニンを腹腔内投与することで、Ptgs2とPtgesのmRNA発現抑制と、COX-2とmPGES-1の免疫陽性細胞の減少が確認された。さらに、免疫組織化学解析より、ジオスゲニンが細胞選択的に、特にマクロファージでの両酵素の発現を抑制することが示された。以上の結果から、ジオスゲニンはGRを介してCOX-2とmPGES-1の発現を抑制し、LPS誘発急性肝障害あるいはNASHにおいて、マクロファージ選択的に両酵素の発現を抑制することが明らかとなった。一方でジオスゲニンは、恒常性維持に必要な血管内皮細胞でのPGE2合成系には影響せず、心血管系への副作用を回避し、細胞選択的に抗炎症効果を有することが示唆された。
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