大腸がんの発生過程において、エピジェネティクスによる遺伝子発現調節機構の重要性は広く認識されている。しかしながら、運動が大腸組織のエピジェネ ティックな遺伝子発現調節機構に影響を与え、大腸がん抑制に貢献しているか否かを検証した研究はこれまでに見当たらない。本申請課題では運動が大腸組織のエピジェネティクスによる遺伝子発現調節機構を介して大腸がん発症の抑制に寄与するという仮説をもとに、運動が大腸がんを抑制するメカニズムを、エピジェ ネティクスのひとつであるヒストン化学修飾に焦点を絞って研究を遂行した。雄性A/Jマウスに発がん物質であるアゾキシメタン (Azoxymethane; AOM)およびデキストラン硫酸ナトリウム (Dextran Sulfate Sodium Salt; DSS)を投与した。その後に、回転ホイール付きの自発走ゲージによる運動によって、大腸がんの抑制効果を確認した。その結果、運動は大腸がんを抑制することができ、これまでの先行研究を支持する結果となった。前年度までに、そのサンプルを使用してヒストン修飾を評価したが、解析した修飾部位ではヒストン修飾に違いが認められなかったため、当該年度はさらに新たな修飾部位を評価した。しかしながら、新たに追加した修飾部位でも違いは認められなかった。まだ全てのヒストン修飾について評価できていないことや限られた介入条件でしか評価できていないことを考慮すると断定は難しいが、今回得られた結果では、運動が大腸がんを抑制するメカニズムにヒストン修飾は関与しないことが示された。
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