研究課題
人工肛門閉鎖術は、術後の感染性合併症発生率が消化器手術の中では比較的高く、全身性炎症反応症候群を併発する腸炎やバクテリアルトランスロケーションを疑う原因不明の敗血症が時に認められる。このような合併症の一因として、廃用性萎縮を来した双孔式人工肛門の肛門側腸管を、術後に便や腸液が通過する点に着目し、肛門側腸管の免疫担当細胞の減少及び形態学的萎縮の程度とこれらの合併症との関連について、本研究代表者はこれまで報告してきた。そこで、人工肛門閉鎖術前に、人工肛門から肛門側腸管へのシンバイオティクスの直接投与による萎縮改善・免疫担当細胞賦活効果と重篤な合併症発生率の低下を目指し、無作為化比較試験で検証した。目標集積は50症例とし、無作為に割り付けたシンバイティクス投与群23症例と非投与群25症例を検討した。投与群には、術直前4日間にビオフェルミン; 3g/dayとGFO 2袋/dayを人工肛門から肛門側腸管に投与し、主要評価項目(感染性合併症発生率、SIRS発生率、SIRS期間および術後平均在院日数)、副次的評価項目(病理組織学的な萎縮改善度、血中細菌DNA検出率等)を解析した。その結果、両群間の背景因子に差は認めなかった。主要評価項目に関しては両群間に差を認めなかった。副次的評価項目に関して、肛門側萎縮腸管の絨毛高測定による形態学的萎縮とCD45RO+ T細胞数による免疫学的萎縮を評価すると、投与群は非投与群と比較して有意な萎縮改善効果が認められた。また、in situ hybridization法による術後の末梢血における好中球中のDNA測定において、非投与群では大腸菌が2例と腸球菌が1例に認められバクテリアルトランスロケーションが疑われたが、投与群に腸内細菌は認めなかった。
2: おおむね順調に進展している
目標集積症例数に到達し、術前の生検検体および切除した人工肛門検体の評価、採取した血液検体の評価を実施中である。現在までに、シンバイオティクスが廃用性萎縮腸管に対する形態学的および免疫学的萎縮改善効果を有することが明らかになりつつある。また、人工肛門閉鎖術後に肛門側萎縮腸管からのバクテリアルトランスロケーションが発生している可能性も明らかになりつつある。
シンバイオティクスの腸管に対する免疫学的萎縮改善効果をより明らかにするため、腸管粘膜固有層のIgA産生細胞や成熟樹状細胞等について病理組織学的に検討する。また、萎縮改善に伴い生化学的なパラメータの変化を評価する。
今年度行った検討は、比較的研究費の負担が少ない病理組織学的検討などであったが、次年度は研究費負担の比較的大きい免疫染色を主体とした検討と血液検体を用いた検討を計画しているため、今年度の研究費を次年度に活用する方針とした。
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