研究実績の概要 |
一つ目の成果では, 代表的な非線形opinion dynamicsであるbest-of-two(Bo2), best-of-three(Bo3)に対し, stochastic block model(SBM)上においてその性質の部分的な解明に成功した. SBMは2つのErdos-RenyiランダムグラフG(n,p)を確率的辺密度qで繋いだグラフである. [1]ではコミュニティ内の辺密度pとコミュニティ間の辺密度qの比q/pがある定数r*より小さい場合, 即ちコミュニティ間を結ぶ辺がコミュニティ内を結ぶ辺と比べて少ない場合, Bo2/Bo3は合意に指数時間かかり, r*より大きい場合対数時間で合意がおこることを示した. 既存研究ではr*が極端に小さい場合の振舞しか扱えておらず, r*が定数でも指数時間の下解が存在することは直観を裏切る例の発見となった. また, r*が定数の場合, コミュニティ間の関係が深くなることから解析は困難となり, 2次元の力学系の挙動を明らかにする必要があったが, これをmonotone dynamicsの技術を導入することで解決することに成功した. 関連研究でこの技法による解析は新しく, 今後の展開が大いに見込まれる. 二つ目の成果では, opinion dynamicsが高速に合意するために意見の更新ルールに求められる特徴を調べた. そして, 意見更新が自身の近傍の意見の"多数決"に近い形で行われる場合, 合意が頂点数の対数時間で起こることを示した. これまで, Bo3(近傍を3つランダムにサンプルし, 多数決を取る)や, Majority(近傍全ての意見を確認し, 多数決を取る)など特定のルールに関しそれぞれ別の解析技法で合意時間の解析が行われていたが, 本研究では意見更新のルールを近傍の意見の関数として定義し, 関数の特徴づけから一般的な解析技法を与え, 多くの既存研究の一般化に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一に, これまでの研究で殆ど扱えていなかった"コミュニティが複数あるグラフ構造"上での特徴づけに成功した意義は大きい. これまでの非線形なopinion dynamicsの解析手法は, その解析の煩雑さから, 完全グラフ・エキスパンダーグラフ等辺密度が均等なグラフ構造上でしか行うことができなかった. このことに対し, SBM上でランダムグラフ上での集中不等式を駆使した集中性の評価により, 辺密度が異なる部分をもつグラフ上で近似的に意見の個数を見積もることが可能となった. 更には, 本質的に, 意見の個数の変動を1ステップごとに見積もるという一次元上のダイナミクス上での解析しか出来ていなかった. これに対し, 2つのコミュニティにおける意見分布の変化を二次元上のダイナミクスととらえ, その収束性について議論が出来るようになったことは, 当初の予想を大幅に上回る成果と言える. 第二に, 意見の更新ルールを関数で表現し, その関数の特徴によってエキスパンダーグラフ上で意見数の評価が可能となった. 解析のアイデア自体はテイラー近似と可逆マルコフ連鎖の第二固有値に基づくシンプルなものだが, これにより多くの更新ルールを統一的に解析できるようになったことの意義は大きく, opinion dynamicsの更に本質的な挙動について踏み込んで議論をすることが可能となった. 以上と, 以下に述べる今後の研究方針の展開を考えた際, 本年度の成果は予想を大きく上回る進展であったといえる.
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今後の研究の推進方策 |
第一に, 本研究課題の到達目標の一つである, opinion dynamicsによるコミュニティ検知を進める. これは, opinion dynamicsは辺密度の高い部分では同じ意見でまとまるという, 同じコミュニティ内では同じ意見に収束するという性質を用い, 単純な分散アルゴリズムによってコミュニティ検知を実現させることを目標とする課題である. 実際には, 任意の(ランダムな)意見配置から, 所望の意見状態へ収束するかどうか, また収束までにかかる時間などの解析は困難を極めるが, 本年度の研究により, コミュニティが2つの場合にはその収束時間の特徴づけがある程度固まってきている. 最大の課題は所望の大域状態への収束確率であり, この解決を目指す. 第二には, 任意の初期状態から合意にかかる時間の上下界の一致があげられる. 本年の研究によって辺密度の十分大きなエキスパンダーグラフ上においてこの課題は解決したが, より辺密度の低いグラフ上において分かっていることは少ない. この課題は第一の課題の達成可否にも関わり, また一般のグラフ上におけるopinion dynamicsの理論解析において重要な課題として残っており, この解決を早期に目指す.
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