研究課題/領域番号 |
19K20214
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
白髪 丈晴 中央大学, 理工学部, 助教 (50803996)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | distributed voting / random graph / Markov chain / マルコフ連鎖 / 合意問題 |
研究実績の概要 |
非線形なopinion dynamicsの特徴づけとその収束時間についての理論解析に成功した. 各頂点が2種類の意見のうち1つを保持するようなネットワークを考える. ここで, 各頂点は自身の近傍にあらかじめ与えられたプロセスに従ってアクセスし, 自身の意見更新を繰り返す. 研究の興味は, 意見更新の方法と意見が1種類に収束するまでにかかる時間である. 局所的なプロセスによる合意, 多数決, 誤り訂正などへの応用が期待され, また耐故障性といった性質を含みうる枠組みとなっており近年積極的に研究が進められている. これまで, 1つの近傍を乱択する(pull voting), 3つの近傍を乱択し多数決を行う(best-of-three)などの方法とその収束時間解析が行われていたが, 本研究では, 意見更新のルールを関数としてとらえ, 関数の特徴づけと, 収束時間の関係について理論的枠組みを構築することに成功した. 具体的には, 意見を変更する確率が"多数決のような"確率分布に従う際, 高確率で頂点数の対数時間で収束することを示した. 実際には, ネットワークがエキスパンダーかつ次数分布がある程度"なめらか"であることを条件としているが, この条件は既存研究のものとほぼ同様/緩和している. これまでの研究では, 個々のルールに関する別々のアプローチによって研究が進められていたが, 本研究の枠組みはそれらを包括するのみならず, さらに広範囲のモデルに対しその振る舞いを理論的に保証するものである. 更には, 複数の既存研究の重要な仮定であった初期状態の仮定を取り除くことにも成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一に, これまで提案されてきたモデルを含む一般化モデルの定義とその理論解析に成功したことが挙げられる. 同様の思想を持つ研究としてはlinear voting modelと呼ばれる線形なプロセスに関し, 更新を行列を用いて表現し解析を行った一般的な枠組みが知られていたが, "非線形な"モデルに関しての特徴づけと対数収束時間の保証は我々の研究が初であり, これまで個々に進められてきた研究を大幅に一般化・改良することに成功している. 例えば, 我々のモデルは"k回近傍を乱択し多数決をとる"といったものも含み, それに対し, \Theta(log n/log k)時間での収束時間を保証した. ここでnは頂点数を表す. この成果により, 定数個の近傍乱択では対数収束時間を破ることは不可能であることが示されている. 第二に, 任意の初期状態からの収束時間を保証したことが挙げられる. Best-of-threeといった非線形モデルの最たる特徴は, 2種類の意見数にギャップが生じたら高速に収束へ向かう, というものであった. 即ち, 多くの既存研究ではこの"意見数のギャップ"を仮定し, "意見数が半々からギャップが生まれるまでの時間"については考慮出来ていなかった. 我々は上記の一般的な枠組みの中で, 任意の初期状態からの収束時間解析に成功し, この問題を解決した. これにより, 非線形モデルのより広い状況下での能力が保証されたこととなった.
|
今後の研究の推進方策 |
高次元のモデルに対する推進を挙げる. 即ち, 1)意見の種類数を現状の2種類からk種類へ拡張する 2)コミュニティ数を現状の1コミュニティからkコミュニティへ拡張する の2点が考えられる. 対称的な(順序がついていない)複数の意見からの合意を投票者モデルによって解こうとする試みは近年積極的に行われており, 特に初期状態において各頂点が異なる意見(即ち, n種類)を持つBest-of-threeの収束時間に対し一連の研究が進んでいる. 一方で, 現状この設定における収束時間のタイトな上界は得られていない. 実験的には頂点数の平方根程度で収束が起こることが確認できるが, 理論的に示されているのは頂点数の劣線形で収束する, という段階である. 最大の難しさは対称性をいかに破るかという点であり, 複数意見が均等な個数を持つ際からギャップが生じるまでの解析をいかに行うかである. この点に関し, 部分的ではあるが個数の分散項がある種の単調性を持つことを発見しており, これを足掛かりにタイトな上界へ検討を進める. 複数のコミュニティ上のモデルは主にコミュニティ検知を応用ともつ方向であり, モデルの挙動解析が一段と煩雑となる. 2コミュニティに関しては昨年度の成果によりある程度明らかになっているが, 3コミュニティ以上に関しては高次元の力学系解析の困難さから分かっていることは少ない. より簡素な確率過程との関連に着目しながら, この問題の解決を目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究推進にあたり必要となった外国書籍購入に際し, 入荷の大幅な遅れ・キャンセルが原因となり, 9,136円が繰り越しとなった.
|