昨年度は,複数年度に渡る同一の参加者のデータを統合し,利用可能にする統計的時系列モデルへ拡張する取り組みを実施した.具体的には,非線形かつ観測ノイズも非ガウス型となる非線形状態空間モデルの形として統計モデルの開発を行うことで,体内細菌叢や血液データの潜在的な状態を隠れ変数として表現し,またモデルを構成するパラメータ値の推定が同時に行えるようなモデルへの拡張を行った.加えてショットガンデータの利用に関しては,対象とする疾患(本研究では主に慢性疾患)に関連する遺伝子パスウェイデータをKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)データから抽出し,参加者の細菌叢が保有する遺伝子セットとしてモデルに組み込むことで,それぞれの参加者の細菌叢が保有する遺伝子パスウェイの各種バイタルデータへの影響を組み込むことを行った. 一方で,Covid19の世界的蔓延もあり,昨年度までに開発したモデルの時系列解析への拡張とショットガンデータ特有の情報を扱えるモデルへの拡張までは実施出来たが,策定したモデルの実装と計算,並びに結果の解釈と発表・論文化という点において想定外の遅れが生じてしまい,予定の研究期間の延長を申請した. このため,本年度においては,開発されたモデルを実際のデータに対して適用し,計算と解析,解釈した上で研究結果として発表するという点までを実施した.上述した通り,本研究の数理的な設計に関する部分は殆ど終了していたため,本年度では主にモデルの修正や実データ適用に合わせた更新,またその実装と解析結果の解釈という,実データへの応用と研究成果の取りまとめに関する部分に着手することが出来た.研究は概ね予定通り終了し,研究成果の学術雑誌への投稿に着手している.
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