本研究では、ニューラルネットワークや外国為替取引で観測されるような、イベント発生時刻とその付加情報からなるマーク付き点過程時系列から要素間の因果関係を推定する手法の開発・構築をおこない、さらに、実データへ応用することを目的としている。具体的には、複数の構成要素からなるシステムにおいて、その各構成要素から観測されるマーク付き点過程時系列を用いて、そのシステムの要素間の因果関係を多変量解析により推定する手法である。 最終年度は、まず、推定手法の改良をおこなった。前年度までに開発していた手法では、要素間のつながりを表すネットワークの構造のみ推定することができていたが、因果の方向性については推定できていなかったため、手法の改良をおこなった。また、実データへの応用として、高解像度な外国為替取引データに対して、開発した推定手法を適用し、解析をおこなったが、新たな知見を得ることには至らなかった。こちらは、今後の課題としたい。 研究期間全体の成果としては、単純点過程時系列間の距離測定指標であるSPIKE-distanceを、イベントの発生時刻のみでなく、各イベントの付加情報も考慮して距離を求めることができるように指標の拡張をおこなうことで、マーク付き点過程時系列間の距離測定指標を開発したこと。さらに、その提案指標を用いて求められたマーク付き点過程時系列間の距離情報に対して偏解析を適用することで因果関係を推定する手法を開発したことがあげられる。これらの提案手法は、本研究で実データとして用いた外国為替取引データだけでなく、さまざまなシステムから観測されるマーク付き点過程時系列への応用が期待できる。
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