研究課題/領域番号 |
19K20238
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研究機関 | 川崎医療福祉大学 |
研究代表者 |
近藤 真史 川崎医療福祉大学, 医療技術学部, 講師 (90590133)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非同期式回路 / 直列演算器 / ボディエリアネットワーク / メタステーブル動作 / デジタル信号処理 |
研究実績の概要 |
提案している低消費電力かつ小面積な直列演算器の応用として,(1)そのシリアル入出力を利用したインタフェース回路とそれに基づいたデジタルフィルタの設計,(2)メタステーブル動作に基づいた暗号化回路への応用を前提としたアービタ回路の検討を行った. まず,(1)については,最大積からの逐次減算に基づく直列乗算器を用いたFIRフィルタ回路の構成を提案した.この構成では,フィルタのタップごとに直列乗算器を配し,それらの乗算結果を桁上げ保存加算器で足し合わせることで積和演算を実現している.特に,その実装にあたっては,ADC/DACからのシリアルデータ入出力を考慮して,直列乗算器に内蔵されるシフトレジスタに直接シリアルデータを入力/出力することにより,既存のシリアル-パラレル変換に係る冗長な回路構成とデータフローを解決している.以上に基づいたFIR フィルタを設計・実装し,シミュレーションおよびFPGA 上での動作を確認した.また,下位8ビットの演算の省略に係る影響の評価を行った結果,周波数特性の劣化が見られたものの,演算時間は約半分に短縮されており,さらなる低消費電力化の効果が示唆された. 次に(2)について,メタステーブル動作と要求の生起状況に基づいて承認信号を譲渡可能なアービタ用の制御回路を提案した.この制御回路は,T-FF による信号の制御によってクロスバースイッチの接続状況を更新し,それにより要求と承認の入れ替えを実現する.これに基づいたツリーアービタを設計した結果,要求と承認の入れ替えを行った後も同様のメタステーブル動作と要求の生起状況により,動的にクロスバースイッチを繰り返し接続できることが確認された.また,承認時間と回路面積にトレードオフが確認されたことから,この制御回路はツリーモジュール間すべてに設置するのではなく,メタステーブル動作が頻発しやすい下段のモジュール間に設けることが推奨される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度実施計画に従って,直列演算器のシリアル入出力を利用したインタフェース回路の設計とそれを用いたデジタルフィルタのFPGA実装を行っている.さらに,メタステーブル動作に基づいた乱数生成回路の基礎検討として,メタステーブル動作持続時間を隠蔽可能なツリー型非同期式アービタの改良を行うなど,当初の実施計画の大部分は達成されている.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の成果である直列演算器を用いたデジタルフィルタでは,演算器単体での演算性能が乏しいことから複数の演算器を用いて信号処理を行う必要がある.そのため,最終的に各演算器の演算結果の総和が必要となるが,それを担う桁上げ保存加算器は並列演算器として構成されている.そこで次年度の研究計画として,これまで提案してきた直列演算器に対する種々の設計手法を前提に,直列桁上げ保存加算器の検討を進める予定である.具体的には,各直列演算器からは各項の下位ビットから順に演算結果が出力される点に着目し,それを単位に単一の全加算器のみを用いて逐次加算を行い,ビット単位の桁上げをシフトレジスタに保持する形態を採る.そして,ADC/DACの入出力から一貫してビット単位で演算可能なデジタルフィルタを再構成し,その有効性を確認する. また,上述のように様々な演算手法とそれに基づいた回路構成の検討が可能となった結果,当初計画していたICチップの試作に移るにはより綿密な設計と評価が必要となる.したがって,FPGAアクセラレータを用いたより大規模・高精度な計算機シミュレーション環境を構築し,チップ実装を想定した性能評価を実施する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響により関連する全ての学会はオンライン開催となり,それに係る旅費が不要となったため. 繰り越し分については,コロナウイルスの影響が改善され次第,次年度の学会旅費などに使用するとともに,計算機シミュレーション環境の構築費に充て,それを用いた性能評価を行う予定である.
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