研究課題/領域番号 |
19K20255
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
須藤 克弥 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (70821867)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 体感品質推定 / 異種無線システム / ユーザ参加型センシング / 映像配信 / 深層学習 / 周波数効率 / 空間補間 |
研究実績の概要 |
モバイルトラヒックの飛躍的な増大を背景として、セルラー網やWiFiなど多種多様な無線システムを連携して利用する異種無線統合システムの実現が望まれている。しかし、周波数帯や通信方式が異なり無線環境が時空間的に変化する中で、適切な無線システム選択し、動画像通信の品質を保証する手法は未だ確立されていない。そこで本研究は、ユーザ参加型センシングと体感品質学習を用いた無線システム選択手法を提案する。パケットロス率や画質などユーザ端末が動画像通信を行い自身で観測した情報をエッジサーバが収集し、多次元の観測情報から現在の無線環境とユーザの体感品質を推定することで、体感品質を満足できる無線システムを選択する。体感品質を評価基準することで周波数利用効率と体感品質を著しく向上する新たな異種無線統合システムを確立する。 具体的には、以下の研究課題に取り組む事で、目標を達成する。 課題1. 通信品質の多次元相関に基づく体感品質評価の研究:多次元特性の統計データをもとに相関を学習することで、体感品質の因子を明らかにする。通信フローとユーザ端末からリアルタイムで観測できるアプリケーション・ネットワーク特性を体感品質評価モデルに入力することで、現状のユーザが感じている満足度を認識する。 課題2. 体感品質に基づく異種無線システム選択手法の研究:課題1で確立した体感品質評価モデルを活用し、満足していない要因(通信特性)を特定すると共に、その要因を改善できる無線環境を有する無線システムと通信パラメータを決定する。これにより、異種無線統合システム全体で周波数利用効率を向上しつつユーザの満足度を改善する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、通信品質の多次元相関に基づく体感品質評価の研究を行なった。具体的には、(1)各端末の受信電波強度を収集し、パケットロス率やスループットなどのネットワーク特性を推定、(2)ネットワーク特性を基に映像の体感品質を推定する多段的な推定モデルを設計した。 (1)受信電波強度からネットワーク特性を推定する手法 空間的・時間的に変動するネットワーク特性を推定する手法の研究を行なった。具体的には、空間的な変動の要因となる受信電波強度と、時間的な変動の要因となる収容ユーザ数を入力としてある時間・ある地点のスループットを推定する深層学習モデルを確立した。他方、ユーザ参加型センシングでは、受信電波強度の観測情報が2次元空間上でスパースになるため、観測情報を空間補間する手法を確立した。具体的には、空間的に欠損している点を補間することが画像処理における超解像やノイズ除去と同様の理論で行われている点に着目し、超解像畳み込みニューラルネットワークを空間補間技術に適用した。この空間補間技術により、全観測地点の平均的な受信電波強度を推定することが可能となり、収容ユーザ数と組み合わせることで、観測エリア全域のスループットを推定することが可能となる。本成果の一部は国際会議2件で発表している。 (2)ネットワーク特性から映像の体感品質を推定する手法 LTE基地局を模擬した無線通信環境で映像品質を評価するシミュレータを構築し、ネットワーク特性と体感品質の相関関係を調査した。スループットと遅延がそれぞれ体感品質と相関係数が高いこと、スループットと遅延に高い相関があることが明らかになった。そこで、スループットと遅延を入力とした1次元畳み込みニューラルネットワークによる体感品質推定手法を設計した。計算機シミュレーションにより、90%以上の高い推定精度を達成できることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、初年度に引き続き、通信品質の多次元相関に基づく体感品質評価の研究を行う。受信電波強度からネットワーク特性を推定する手法とネットワーク特性から映像の体感品質を推定する手法はそれぞれ独立に設計・性能評価されているため、ネットワーク特性の推定誤差が体感品質に与える影響を調査する必要がある。また、WiFi access pointで構成される無線システムで映像品質を評価する実機テストベットを構築し、体感品質に関する多次元情報を収集・解析し、実観測データでの性能を検証する。統計データから得られる受信電波強度と収容ユーザ数から将来的な体感品質を予測できる手法を開発し、80%以上の推定精度を達成できることを次年度の目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初搬入を予定した実験機器が新型ウイルスの発生により延期になったため、本年度の購入を見送った。次年度に購入する予定である。
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