本研究課題の目的である準同型暗号Toolkitの開発を目的に、2019年度では既存の準同型暗号の実装手法の調査と改善を行った。特に、現在最も実用に近いRing-LWEベース準同型暗号に焦点を当て、Ring-LWEベース準同型暗号の演算に用いられるNumber-theoretic Transform (NTT)の実装について、耐量子計算機暗号(PQC)の文脈での実装研究も含め調査した。この結果、Ring-LWEベースPQCのNTT実装研究がより進んでおり、また、それらの多くは準同型暗号へ適用されていないことが分かった。そこで、Ring-LWEベースPQCで提案されているNTT実装手法について、準同型暗号への適用を考察した。 既存のRing-LWEベース準同型暗号の実装では、Longa-NaehrigのNTT[CANS'16]が多く用いられているが、PQCにおいてはより高速なScottのNTT[IMACC'17]が提案されている。そこで、ScottのNTTの準同型暗号への適用について考察し、適用におけるパラメータ条件や高速な実装方法を提案した。実際にソフトウェア実装を行い、高速な準同型暗号向けNTTライブラリ"NFLlib"[CT-RSA'16]と比較、実測値で二倍弱の高速化に成功した。開発したソフトウェアはgithubにてオープンソースとして公開している。これらの知見を基にアーキテクチャや暗号パラメータに基づく自動最適化に着手する予定である。
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