2022年度は2021年度にて開発した悪条件行列向けの前処理行列の理論的な解析を行った。この前処理行列は誤差が発生しない状況では前処理行列として機能することはなく、悪条件の際のみに前処理行列として機能する。このような現象を解明するために、行列積の際の丸め誤差を行列近似としてモデル化し、特異値分解の観点から解析を行った。理論解析の結果、ある閾値以上の特異値を用いた低ランク近似行列で正規行列を計算し、閾値の二乗をシフト量として、正規行列の固有値をシフトした行列のQR分解が、前処理行列として機能し、特異値の分布によって性能が変化するなど、2021年度で提案した前処理と同様の性質を持つことを理論的に示した。
本研究期間全体を通じて、悪条件をキーワードとし、前処理行列の条件数の低減に関する研究を行った。 2021年度に悪条件の最小二乗問題を正規方程式として解く際に、その係数行列のQR分解が前処理行列となることを数値的に示した。ただし、悪条件の際のみに前処理行列として機能する現象の説明が未解決であったため、2022年度に特異値分解の観点から理論的に解析を行った。また、アプリケーションとして、疎な連立一次方程式の精度保証付き数値計算、疎な最小二乗問題の精度保証付き数値計算法の提案を行い、日本応用数理学会で発表した「非対称疎行列を係数とする連立一次方程式に対する精度保証付き数値計算の数値的比較」にて、日本応用数理学会 2019年度若手優秀講演賞を受賞した。また、2019年度のJSST 2019にて発表した「Verification method for sparse least squares problems」にて、JSST 2019 Outstanding Presentation Awardを受賞した。
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