研究課題/領域番号 |
19K20291
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
斉藤 篤 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10781445)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 時空間統計モデル / 深層学習 / 生成モデル / 解剖学 |
研究実績の概要 |
人工知能を用いた画像診断支援ソフトウェアの技術開発が進んでいる.これらの技術においては「人体の統計モデル」,すなわち個体間での臓器形状やテクスチャの「空間的」ばらつきを説明する数理モデルが不可欠である.しかしながら,実際には人体の解剖は「時間的」にも変化する.これまでに,特定の時点での「空間的」変動だけでなく,各個体が「時間的」にどのように変化するかを説明可能な「時空間統計モデル」の構築法は十分に研究されてこなかった.同一個体に対して時間を置いて取得した「縦断的データ」を用いた時空間解析についてはいくつかの研究が行われているが,医用画像においては縦断的データが利用可能なケースは少ない.そこで本研究では,縦断的ではない時系列データから,個々の個体の時間変化を予測可能なモデルを構築する方法の開発を目指す. 本年度は,本研究で構想する時空間統計モデル構築の基礎となる,時空間統計解析技術において重要な進展があった.3次元の肝臓形状とCT画像における肺野テクスチャそれぞれに対して,深層生成モデルの一種である変分自己符号化器を用いた統計モデルを提案し,その有効性を明らかにした.また,ランドマークの発生に対応可能な,ヒト胚子の点群に対する時空間統計モデル構築法を提案した.これらの成果の一部を医用画像解析の主要な国際会議(CARS,MICCAI等)において発表した. 経時変化の予測精度を評価するためには,縦断的データが必要である.そこで,Children's National Medical Center(ワシントンDC,米国)から比較的解像度の高い小児の時系列MR画像15例を収集した.肝臓形状を初期検討の対象とし,データセットの作成を行った.具体的には,肝臓領域の手動セグメンテーションと,時刻間での半自動の非線形画像位置合わせを組み合わせ,各症例・各時刻の肝臓の正解ラベルを作成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で構想する「時空間統計モデル」の構築の鍵となる技術について,いくつかの研究成果が出ており,順調に進展しているといえる.また,解析予定の正解ラベルデータベースの作成も計画通り行われている.しかしながら,時刻間の位置合わせ誤差によるラベルの誤りや,症例数の不足など,データセットの信頼性の問題が残っており,ラベルの見直しや症例の追加収集を継続する必要がある. 以上の理由から,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は時空間統計モデル構築において「時間方向」の解析に焦点を当てる.具体的には,深層学習を用いて,個体のある時点から他方の時点の状態を予測するモデルを明らかにする.そのために,異なる時点の2つの対応のないデータ群間での写像を学習可能な,敵対的生成ネットワークの一種であるCycleGANなど,最新の機械学習をベースとした手法を検討する.現在のところ,上記を含む既存手法は構造的変化への対処が難しいことが指摘されており,解剖学的変形を伴う経時変化の予測には適していないと予想される.そこで,形状やランドマークなど,それぞれの入力に最適なネットワーク構造や,幾何学的類似性を考慮可能な損失関数などを明らかにし,この問題を解決する.また,症例の追加収集や解剖ラベルの作成・見直しも並行して行い,必要に応じて医師のフィードバックを得るなどして,データセットの信頼性を高める.
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