聴力検査では問題がないが、雑踏の中での音声の聞き取り(選択的聴取)が困難になる隠れ難聴に悩む人が増えている。本研究の目的は、隠れ難聴における聴覚末梢系の関与について明らかにしたうえで、隠れ難聴を診断するシステムを開発することである。本課題の研究期間では、隠れ難聴と聴覚末梢系の特性との関係性を明らかにするために,隠れ難聴の程度を定量化するための聴覚テストを作成し、聴覚末梢系の特性を心理物理実験によって測定した結果との対応を見た。 前年度までに、隠れ難聴の程度を測る聴覚テストとして、雑音中から単語を聴き取る課題と両耳に別々に提示した単語を聴き取る課題を作成した。 最終年度は、聴覚末梢系の周波数および時間処理の特性を反映した指標として、同時マスキング閾値と時間ギャップ検出閾値を測定した。また、聴覚末梢系の内耳にある外有毛細胞の特性である耳音響放射を計測した。これらの結果を前年度までに作成、計測した隠れ難聴の定量化試験の結果との相関分析を行った。 最終年度の分析も踏まえ、研究期間全体を通じて、1. 隠れ難聴の程度とマスキング閾値の間に有意な負の相関があったこと、2. 隠れ難聴の程度とギャップ検出閾値には有意な相関がないこと、3. 隠れ難聴の程度と耳音響放射の強度の間には有意傾向の相関が見られることが明らかとなった。 以上のことから、マスキング閾値や耳音響放射を用いることによって隠れ難聴の程度を推定できる可能性が示唆された。
|