研究課題/領域番号 |
19K20312
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
富岡 雅弘 秋田大学, 理工学研究科, 特任助教 (00838683)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 把持戦略 / つまみ動作 / モーションキャプチャ / 若年者 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
本研究は,高分解能な磁気式手指用モーションキャプチャ(Hand-MoCap)装置を使用し,実際に手指巧緻動作を計測および解析することで,ヒトの手指巧緻動作における把持戦略の特徴を抽出することが最終目的である.日常生活動作における基本動作として母指および示指によるつまみ動作に着目した.つまむ対象は任意の長さの円柱を想定しており,長さ10mmから105mmまで5mm間隔で計20パターンを3DCADソフトで設計し,3Dプリンタによって造形した.また,造形した対象物と磁気式Hand-MoCap装置を組み合わせることにより,つまみ動作計測システムを構築し,長さの異なる対象物をつまむ動作を測定した.ヒトは対象物を把持しようとする場合,手が物体に届く前のリーチング(到達運動)から把持が完了するグラスピング(把持運動)までの過程において,視覚情報を基に,対象物の大きさや形に応じて手指形状を準備する.この行動をプリシェイピングといいヒトは瞬時に把持に必要な動作を最適化している.これらのヒトが無意識のうちに実行している「把持戦略」を抽出するためには,つまみ動作をする際に「視覚で対象物を認識し,実際につまむ」という一連の動作を計測しなければならない.これらを満たす最適な計測条件を設定した.また被験者は,若年者31名,高齢者18名,計49名とした.さらに,計測データを基に「母指および示指と対象物との姿勢」,「各指の指腹部と対象物との接触位置」,「手指が対象物に届く間の軌道」,「手指が対象物に届く間の母指および示指の姿勢および位置関係」を解析するためのプログラムを作成した.作成した解析プログラムを用いて若年者と高齢者のつまみ動作を解析することで,若年者と運動機能の低下した高齢者の把持動作を比較することで老化がプリシェイピングに与える影響について検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では,①把持対象物の設計・作製および計測システムの構築,②若年者および高齢者の把持動作の計測,③若年者および高齢者の把持動作の解析を実施計画としていた.①についてはつまみ動作を計測する際につまんだ瞬間の指腹部と対象物との接触位置を解析することを考慮した形状となっており,②の計測自体も予定通りデータ数を大幅に増やすことができた. ③の把持動作の解析についてはこれまでの研究成果で得られた手指に装着したレシーバで計測したモーションキャプチャデータから手指の位置や姿勢を算出する技術を応用し,手指の軌道および母指および示指の指先の指骨の位置・姿勢を算出する解析プログラムを新たに作成した.また,新たに作成した解析プログラムの妥当性も検証済みである.さらに,新たに購入したワークステーションを用いることで,より効率的に被験者全員分のデータを解析することが可能となった.
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今後の研究の推進方策 |
現在,若年者および高齢者における把持動作の解析が終わっており,解析データから若年者と高齢者の把持動作を比較している.「母指および示指と対象物との姿勢」,「各指の指腹部と対象物との接触位置」については先行研究で得られた知見と同様な傾向が得られていることがわかった.新たに作成した「手指が対象物に届く間の軌道」,「手指が対象物に届く間の母指および示指の姿勢および位置関係」の解析データに関しては若年者と高齢者の解析データを比較している途中である.今年度はこれらの解析データを比較していく.また,比較する際には統計的な解析を加える必要があると考えている.得られた解析結果を踏まえ,若年者と高齢者における把持戦略の違いを明らかにしていく. 今年度は研究成果の発表を予定していたが,新型コロナウイルスの影響で学会参加が困難になることが予想されている.実際に2020年3月に予定されていた学会はほとんどが中止となった.現在の状況を考え,今年度は研究成果の発表は,学会発表ではなく研究論文を中心に成果発表する予定である.現在解析途中のデータをまとめ,論文として学術誌に掲載を目指す.また,現状のコロナ禍の影響が緩和され,学会発表に参加できる機会がある場合には積極的に参加していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,学会発表や論文執筆に使用する予定であった金額が残ったことが原因である.申請時の研究計画では学会発表や論文の投稿は次年度を計画していた.そのため,当該年度ではその分の予算を使用することができなかった.また,当該年度で実施した実験では謝金が必要なかったことも次年度に使用額が生じた理由のひとつである. 次年度の仕様計画としては,論文の執筆に必要な英文校正や掲載料などの研究成果の発表に残りの予算を使用する予定である.
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