本研究は,高分解能な磁気式手指用モーションキャプチャ(Hand-MoCap)装置を使用し,実際に手指巧緻動作を計測および解析することで,ヒトの手指巧緻動作における把持戦略の特徴を抽出することが最終目的である.日常生活動作における基本動作として母指および示指によるつまみ動作に着目した.つまむ対象は任意の長さの円柱を想定しており,長さ10mmから105mmまで5mm間隔で計20パターンを3DCADソフトで設計し,3Dプリンタによって造形した.また,造形した対象物と磁気式Hand-MoCap装置を組み合わせることにより,つまみ動作計測システムを構築し,長さの異なる対象物をつまむ動作を測定した.ヒトは対象物を把持しようとする場合,手が物体に届く前のリーチング(到達運動)から把持が完了するグラスピング(把持運動)までの過程において,視覚情報を基に,対象物の大きさや形に応じて手指形状を準備する.この行動をプリシェイピングといいヒトは瞬時に把持に必要な動作を最適化している.これらのヒトが無意識のうちに実行している「把持戦略」を抽出するためには,つまみ動作をする際に「視覚で対象物を認識し,実際につまむ」という一連の動作を計測しなければならない.これらを満たす最適な計測条件を設定した.また被験者は,若年者31名,高齢者18名,計49名とした.さらに,計測データを基に「手指が対象物に届く間の軌道」,「手指が対象物に届く間の母指および示指の姿勢および位置関係」を解析するためのプログラムを作成した.若年者と運動機能の低下した高齢者の把持動作を解析し,比較することで老化がプリシェイピングに与える影響について検討した.その結果,若年者は対象物の大きさに応じて事前に各指の姿勢を調整しているのに対し,高齢者は指が対象物に十分に近づいてから示指と母指の距離を調整する傾向にあることが明らかとなった.
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