本研究では,頭部装着型ディスプレイ(HMD)上の提示がユーザの心身へと与える影響を明らかにすることを目的としている.HMDを利用する際には,ユーザはこれまでとは異なった環境で視覚情報を閲覧することになる.スマートグラスを用いて歩行などを行っている移動中に視覚情報を閲覧したり,AugmentedReality (AR) によって実世界上では配置されることのない場所に配置されたオブジェクトを閲覧したり,VirtualReality (VR) によって違う場所に居るように感じられる映像を閲覧したりすることになる.これまでに視覚情報による人の行動や思考を変化させる影響は調査されてきたが,このような環境では異なる影響を与える可能性があるために調査を行う必要がある. 本研究の申請時での計画では,数字,文字などや静止画,動画をHMD上に提示した際の影響について調査する予定であった.数字や文字を提示した際の影響に関して予備実験を行ったところ,今後に調査を進めていく必要性を見いだせたが,当初に狙っていた効果とは異なる面について基礎調査を進めていく必要があると考えられたため,数字や文字の調査は今後継続して進めていくものとして,本研究の期間では,動画の提示による影響の調査を主に進めていった. 動画に関する調査では,HMDユーザは移動中にHMDを用いて動画を閲覧でき,職場や学校などの目的地に着き次第,動画の閲覧を止め,すぐに何らかの作業を行うことになる.そこで,移動中に閲覧していた動画の影響を後の作業に活かせないかについて実験を行った.実験では,HMD上に走る人の3Dアニメーションを表示し,その走る速度が速いことで,閲覧後に行う作業の速度も上がるのではないかを調査した.実験の結果,VR環境で実験を行った際には,速く走るアニメーションを見た後では,作業の速度が上がることを確認した.
|