研究課題/領域番号 |
19K20340
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 栄太 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (10707574)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 進化的統計学習理論 / 創作者と評価者の進化モデル / 音楽創作 / 動的な統計学習理論 / 文化的進化 / 音楽生成モデル / 進化理論 / 音楽知能情報処理 |
研究実績の概要 |
基本モデルである統計学習生成系の構成と理論解析、さらに観測実験のデータ収集・整備を主に行った。データ収集・整備では、既に収集済みの西洋古典音楽約1万曲のデータと演歌メロディー約800曲のデータに対して整備を行った。また、既に800曲超のJポップのメロディーデータの収集を行っており、今後も引き続きデータを増やすとともに作曲年代情報の付与などをして計算機による分析が可能な形式に整備をする。理論的側面では、「統計モデルの学習とデータ生成によりモデル化される創作者」と「データを評価する評価者」の時間発展を表す力学系を構成した。理論的に単純なケースである、音楽イベントの頻度に対応する1次元の確率パラメータからなる統計モデルの場合の解析を行った。社会的な選択に関する適応度である評価関数として、新規性および典型性を情報量尺度で表現する仕組みを考案し、この場合のモデルの振る舞いを理論的に調べた。この結果、評価関数に新規性の項が含まれる時には、確率パラメータの平均が小さい領域で、平均および標準偏差がともに指数関数的に単調増加すること、そしてそれらの比が1よりも少し小さい値に近似的に収束することを示した。これらの性質は、西洋古典音楽のデータに見られる、トライトーンの頻度および非全音音階的音程列の頻度の時代変化の性質に定性的・定量的に合致することも確認した。一方で、演歌データにおいては不規則なリズムの頻度などの分布において、平均値および標準偏差が時代に沿って徐々に小さくなる現象を発見し、この挙動も同じモデルにおいて典型性がより重要視される場合に定量的に得られる結果に合致することを示した。これらの結果は、音楽データの時代変化には一定の統計的進化法則が存在することを示すとともに、それが進化理論の枠組で説明できる可能性を示しており、文化的進化に関する新しい知見を与えたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、理論構築と解析およびデータ収集と解析において、概ね計画通りの成果が得られている。当初計画していた音楽大学の学生を対象とした、和声課題の実施などの創作データの電子媒体での記録に関しては、資金不足を理由に収集を見送った。一方で、収集した歴史的音楽データの解析を通して、予想していた以上の統計法則が発見されるなどの発展もあり、対応する理論的な解析も進展している。また、文法構造を表す潜在空間モデルに基づく音楽生成モデルにおいては、音楽スタイルを変換する自動作曲の手法に応用できるという知見も得られており、実用システムを通した動的な統計学習理論の実験の可能性も拓けた。得られた成果の量は計画通りであり、全体的な研究の進捗状況は予定通りと言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、2020年度は統計学習生成系の動的過程の詳しい解析および実データとの照合に基づく検証を行う。文法構造を表す潜在空間モデルのサイズを変化させて、世代間の創作者の分布の距離を解析する。これにより、文法規則の有無や複雑度と学習精度の関係を求める。また、複数の創作者・評価者の系を用いて、スタイルの分化を調べる。さらに、評判関数の高次項の効果の解析とデータからの逆推定を行う。観測実験では、西洋クラシック音楽・ポピュラー音楽など多様な時代・ジャンルの音楽データを解析し、スタイルの時代変化の一般的法則を抽出する。既に、西洋クラシック音楽の複数の特徴量で見つかっている平均値と標準偏差の一定性や平均値の指数増加則などの統計進化則を多くのデータで抽出する。音楽特徴量空間におけるクラスターとして捉えられる創作スタイルの発生・発展・消滅・分化・融合などの動的過程を定量的に調べる。研究成果は、論文誌および国際会議での発表を通して行う他、成果をWebページにて広く社会に公開する。
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