研究課題/領域番号 |
19K20357
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
秦 重史 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (70735927)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パターン形成 / 複雑ネットワーク |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き,対象とする反応拡散ネットワークにおける動的過程の統計的性質を,数値実験および理論解析を通して明らかにすることを目標とした.この反応拡散モデルは大域的な拡散係数の大きさ,および局所的な拡散係数の抑制率に依存して系に局在構造を形成する.また,これらのパラメータの値に依存して局在構造が媒質の一部に定在,もしくは媒質内を伝播することが数値実験により確認できる. 本年度は主に,形成される局在構造の統計的性質を数値実験により調べるとともに,局在構造の定在・伝播を伴う分岐現象を理論的に説明することを試みた.数値実験においては,複数の異なる反応モデルをシステムに組み込み実験を行い,それぞれにおいて得られた結果の比較を行うことで,本モデルが局在構造を形成する上で本質的に重要な要素の同定を試みた.これまでに,葉脈の形態形成を記述する数理モデルにおいてしばしば用いられる「運河仮説」に類似した機構が,本反応拡散モデルにおける局在構造の形成に大きく寄与していることを示唆する結果が得られている.理論解析においては,摂動近似に加え,断熱近似,single-differentiated-nodeを用いた解析など,ある種の極限を仮定することで,前年度よりも広い範囲の解析計算を試みた.しかしながら,注目している分岐現象,および,伝播する局在構造の各ノードにおける滞在確率など,数値実験から示唆される系の統計的性質を説明するには至らなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
構築した反応拡散モデルは広いクラスの構造を持つ媒質において局在構造を形成するが,パラメータに依存してこの局在構造が系の一部に定在,もしくは系全体を伝播することが数値実験で確認できている.この定在・伝播の転移は非自明であり,各種理論解析を通して原理の説明を試みている.研究提案の時点でこの現象を説明し得ると想定していた理論解析に加え,ある種の極限操作も行い説明を試みたが,現時点では上記を説明するに至っていない.また,数値実験から多くのことがわかりつつある一方で解析計算の進捗がボトルネックとなり,研究成果としてまとめるに至っていない.以上の理由から研究の進捗は遅れていると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
研究進捗欄に記述した通り,これまでに試みた理論解析では,注目している分岐現象を説明するに至っていない.扱っている反応拡散モデルは強い非線形性を持つため,解析的な手段でこれを説明することができるか自明ではない.そこで今後は,解析計算の見通しが立つまで,数値実験を中心な手段として研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で国際会議への参加を取りやめたこと,および国内学会がオンライン開催となったことで旅費が生じなかったため次年度使用額が生じた.感染症の状況が落ち着き次第,国内外の研究会に参加するための旅費に充てる予定である.また,今後の研究推進の方策に記したとおり,数値実験を中心に研究を進める.このため,直接経費の使用用途を一部変更し,計算機の導入に充てる.
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