研究実績の概要 |
本研究では, 機械学習などで用いられる一般的な神経回路が特定のパラメータ値において動的な均衡という性質を示すことに着目し, この性質が学習において有用であることを示そうとするものである. 2019年度の研究で動的均衡にある神経回路に摂動的入力を与えた場合の応答理論が完成して論文発表をしていた. この結果と機械学習における学習性能を結びつけるのが本研究課題の狙いであるが, 2020年度は2019年度の結果を推し進めて, 神経回路に与えた入力が動的均衡の効果によって時間的に保持され, 学習に利用しやすくなる様子を理論的解析及び数値シミュレーションによってさらに詳細に研究した. より具体的には, 申請者自身がはじめて構築した新しいタイプの理論から, 与えられた入力がどのような神経回路の応答を引き起こすかについて縮約された方程式を導き, それを数値シミュレーションすることによって調べた. この方程式から, 学習時に予想される誤差などをその他の理論と組み合わせて導くことができる. またこの結果を神経回路を直接シミュレーションした場合と比べて, 理論的予測・仮説の妥当性を確かめながら行った. 結果として, 研究計画当初予想していた「動的均衡にない神経回路に比べて, 動的均衡にある神経回路は学習に有利である」という仮説を肯定するような予備的な結果が得られた. また, より現実的・具体的な問題において性能を示すことを目標として, 上記の計算結果から提案される, より複雑な構造を持つ神経回路学習のシミュレーションプログラムを作成した. より複雑な構造を持つ神経回路に上記の理論を拡張していくことによって, 神経回路ベースの学習機械の構造を最適化していく指針が得られることが期待される.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の進捗状況では, 基盤となる理論的結果が予想通り得られて非常に順調であった一方, 数値シミュレーションに関しては機器のトラブルなどによってやや遅れ気味であった. そこで今年度では, 数値シミュレーションによる実証をより重視して, 重点的にプログラム開発を行った結果, 当初予定していたペースで数値シミュレーションを進めることができた. この数値シミュレーションは計算機の性能をフルに活用して実行しなければ現実的な時間内に完了できないほどの計算資源を必要とするが, それによってはじめて得られる情報があり, この計算方法を確立した意義は大きいと考えられる. 昨年度の結果と本年度の結果を合わせると, 理論と数値実験の両面から次年度以降のプロジェクトの発展を支える重要な基盤結果が確立したと言え, この意味で研究は順調であると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度までの研究で予定通り基盤となる理論的結果と数値計算結果が得られたことから, 当初の予定通り応用に向けた研究を進めていくことができる. 従って, 研究計画の大きな変更は必要としない. 具体的には2020年度までに行った基本的な場合の結果を, 神経回路がより複雑な構造を持つ場合に適用できるよう理論・数値シミュレーションを拡張していき, そこから応用上の性能を高めるための知見を得ていく. より複雑な構造を持つ動的均衡を示す神経回路は, 質的に複雑な挙動を示し, そのことが複雑な現実の状況を学習する上で有用である, という仮説のもと, これを理論的・数値的に検証していく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
使用額は概ね当初想定していた通りであったが, 研究の発展とともに必要となる物品・資料が若干変化した. その結果, 未使用額11160円については次年度請求分と合算して, 次年度に必要となる資料の購入に充当した方が効果的であると判断された. 従って上記金額を次年度使用額として計上する. 具体的には学会での発表費用と書籍購入, 外部機関のスーパーコンピューター利用サービスによる追加計算資源の購入の一部として使用する予定である.
|