本研究では、機械学習などで用いられる神経回路の一種であるリカレント神経回路が、パラメタ値が特定の条件を満たす際に動的な均衡という性質を示すことに着目し、この性質が学習において有用であることを示そうとするものである。2019年度の研究で動的な均衡にある神経回路に外部から入力を与えた場合の応答理論が完成して論文発表をしていた。2020年度は2019年度の結果をおし進めて、神経回路に与えた入力が動的均衡の効果によって時間的に保持され学習に影響するかを調べるために、入力が出力に与える縮約された方程式を導き、それを数値シミュレーションによって調べる方法を開発した。これらの成果において、動的均衡にある神経回路はそうでない神経回路よりも学習に有利な側面を持つ、ということを示す予備的な結果が得られていた。2021年度は、これをもとに動的均衡がある場合とない場合との学習の進み方について、特殊な場合における理論計算と一般的な条件のもとでの大規模な数値計算を組み合わせて調べていった。ランダムな結合をもつ神経回路を利用した学習はレザボワ計算と呼ばれ、これまでにも研究が積み重ねられてきたが、従来の学習方法ではうまく学習できない状況で動的均衡にある神経回路がうまく学習できることを見出した。理論的には動的均衡にある神経回路のより複雑な臨界特性とそれによる記憶効果を活用して学習をうまく進めることができることが示せた。上記の研究では主に比較的シンプルな神経回路とシンプルな学習課題を扱ったが、得られた結果からは、シンプルな神経回路を組み合わせてより複雑な学習課題を解決することについても示唆が得られたので、この場合についての数値シミュレーションと理論計算も進め、神経回路の構造を工夫することで人工知能に求められる複雑な学習課題の解決能力を向上させられるという予備的な結果を得た。
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