研究課題/領域番号 |
19K20363
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
坂田 綾香 統計数理研究所, 数理・推論研究系, 准教授 (80733071)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 階層ベイズ / 確率伝搬法 / スパース推定 |
研究実績の概要 |
階層ベイズモデルを用いたグループテストについての理論を構成した。また、同時に能動学習により推定性能を向上させる方法を開発した。それぞれの研究内容について以下にまとめる。 (i) 階層ベイズモデルを用いたグループテストについての理論 グループテストとは、集団内の"defective"な要素を、観測を通して発見する手法である。その際、観測数は集団内の要素数よりも少ないとする。したがって、全探索よりも観測数を減らすことができ、観測にコストがかかる問題群では非常に有用な方法である。この問題は、近年ブラックホールの観測等でも用いられたスパース推定の一種でもあることから、信号処理や情報科学の話題としての長い歴史を持つ。昨年度の研究で、我々はベイズ推定によりグループテストを定式化し、確率伝搬法による復号方法を提案した。その際、いくつかのハイパーパラメータを仮定していた。本年度は、これらのハイパーパラメータのモデリングも含む、階層ベイズモデルによって問題を定式化した。この研究成果はJournal of Physical Society of Japan誌に掲載され、Editors' choice(注目論文)に選ばれた。 (ii) 能動学習による推定性能向上について 能動学習とは、逐次的なデータサンプリングにおいて、推定精度を向上させるようにデータを取得していく方法である。この方法をグループテストの階層ベイズモデルと組み合わせることで、観測数を減らせることを発見した。通常の観測と比較して3割程度の削減に成功しており、この改善は実用上大きな意味を持つと考える。この研究成果はPhysical Review E誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、スパース推定の一般論について階層モデルの研究を行う方針であったが、スパース推定の一種であるグループテストについての研究を行なっている。そのため、個別論から一般論へ展開する方針に変更したとも言える。しかし、具体例において研究を進めたことにより、理論を構成する上での問題点が具体的となり、研究遂行において良い方向に影響を与えていると考えている。本年度は、グループテストの研究について、階層モデルとしての扱いと能動学習の利用という2点についての研究を行うことができ、概ね順調に研究が進展していると考えている。また研究の広報活動としても、論文2報に加えJPSJのWebページ上で簡単なサマリーを紹介する機会をいただき、また物理学会内のインフォーマルミーティングにおいて研究発表の機会をいただいた。その結果、さまざまな専門家からフィードバックをいただくことができ、来年度以降の研究が進展していくと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
グループテストで得た知見を、より広いスパース推定の問題に適用していくことが今後の課題である。特に、グループテストの扱いやすさは、推定変数が二値の離散変数である点にある。しかし一般の推定問題は連続変数を扱うことが多いため、現状の理論を連続変数に適用することがまず最初の課題であると考えている。どのような方針により連続変数を扱うか、さまざまな方法が検討されるが、たとえばquery by committeeと呼ばれる能動学習の方法を使うことも一つの方法である。これは能動学習におけるデータサンプリング方を、ベイズ予測分布を用いて近似的に行う方法である。ある極限をとれば近似精度をあげられることが知られており、このような方法を階層ベイズモデルと組み合わせるのが一つの方向性であると考えている。 本研究計画の最終年度にあたるため、これまでの研究成果を結びつけ、より広いクラスの問題に適用可能な知見を発見していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナにより出張がなくなったため、旅費の支出がなかった。来年度以降の出張に使用したいと考えている。
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